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君がどれだけの人ごみに紛れていても、俺は見つけ出せる
運命の出会いから1週間経っても、俺は彼女を見つけ出すことがでいなかった。同じ制服で、俺の事を「本宮君」と言ったからこの学校の同級生だと思うけど、他のクラスを覗いても、彼女は居なかった。
もしかして、あれは俺だけにしか見えない生徒なのか?
なんて考えると、ドキドキして。毎日彼女の事を思い出しては、体温が1度くらい上がる。
「何ニヤニヤしてるんだよ、本宮。次、全校集会で体育館集合だってよ。行くぞ」
友達に引っ張れて体育館に行って、誰かの表彰とか、学校内外の注意事項とか、校長先生の話とか。ぼ~と聞き流していると、終わった。終わったら体育館の出入り口は教室に戻ろうとする人を磁石のように引き寄せる。俺もN極かS極か分からないまま入り口に引き寄せられていると、俺の前を長い髪の華奢な背中が横切った。
「オ、オレンジっ」
思わず口をついて出た言葉と、思わず掴んだ腕は見た目以上に華奢で、振り返り僕を見た彼女は、あの時の覗き込んだ目と同じく大きく見開いていて、俺の記憶の中の彼女と一致して体温が2度上がった。
「本宮君。この間はありがとう。でも、私がぶつかったせいで授業に遅れてしまったわよね。ごめんなんさい」
「いや。俺は全然。それより、体は大丈夫だった?ムチ打ちとか、頭痛とか、吐き気とか。後から症状出たりして無い?」
掴んだ腕を引き寄せながら問いかけると、彼女は後ずさりしながら体を逸らす。
「全然大丈夫だから。手、離して」
「あ、ごめん」
運命の再会に胸を震わせているというのに、空気を読まない邪魔者が。
「小巻、本宮と知り合いだったの?」
邪魔者は、一年先輩で俺が遊びに行く先々でよく出会い、自分と同じタイプの人間じゃ無いかと、お互いに仲間意識が芽生え始めている。派手な容姿だけど、実はいい人な朝倉さんだった。
「この間、廊下でぶつかって調理実習で使うオレンジを拾って貰っただけの関係」
彼女は朝倉さんにも俺と同じ表情と口調で応えるとすぐに、背を向けて人ごみを縫うように駆けて行った。
「朝倉さん。あの人、小巻って呼んでましたよね。知り合いですか?」
「うん。同じクラスの友達」
俺と朝倉さんは人ごみに消えて行く小巻さんの背中を眺めながら、言葉を交わした。
どおりで見つからないわけだ。違う学年の教室までは探しに行かなかったから。
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