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恋に恋してたら、ぶつかった。
私が恋をするのなら、少女漫画のような恋がしたい。
小さい頃から大好きな少女漫画を読むたびに、心の中で何度もそう願っていたからなのか、初めて恋をした人は、漫画の中から飛び出してきたようにカッコイイ、本宮君。
入学した時からみんなの目を引く彼は、いつも友達と楽しそうに笑っていて、その笑顔を見ているだけで、胸が高鳴る。同じ学校でも、学年が違うから毎日姿を見ることは無いけれど、彼が学校のどこかにいると思うだけで、毎日登校するのが楽しくなる。
でも私は少女漫画の主人公のようにアプローチなんて出来ないから、ひっそりと遠くから彼を思う事しかできなかったんだけれど。あの日、廊下で本宮君とぶつかってから、彼との距離が少しだけ近づいた気がする。
廊下にひっくり返った私を心配そうに覗き込んだ本宮君を見た時、私の心はドキッっとでは無く、ザワっと揺れ動いた。
本当の恋って、ドキッ、じゃ無くて、ザワっ、が正解なの?
私が読んできた少女漫画なら、主人公はここで胸がときめいて、顔が赤くなって、可愛く動揺したりして彼に印象を残すのに。私の胸はザワついて、体温は平熱を下回り、極めて業務的な可愛げの無い返答しか出来ず、逃げるように立ち去ってしまった。
好きな人と初めて言葉を交わした動揺なのかも、と自分に言い聞かせたけれど、本当かな?
それから数日後。全校集会が終わって体育館から帰る時。いきなり私の腕を掴んで引き留めた人は、本宮君だった。驚く私に本宮君はキラキラした目で話しかけてくれたけど、私は掴まれた腕が気になって気になって。
少女漫画なら、運命の再会を喜んでいるように胸が高鳴り、恋する気持ちがあふれ出してしまうハズなのに。現実の私は、本宮君に掴まれた腕からゾワゾワと鳥肌が立って、居ても立っても居られなくなった。
好きなのに。恋してるのに。どうしてこんな気持ちが沸き起こるの? これじゃ本宮君の事、生理的に受け付けない人みたいじゃない。
認めたくはないけれど、本宮君が私に絡んでくると私の感情は恋とは反対の反応をする。恋って、知識通りの感情にはなってくれないものなんだと落ち込んでいると、朝倉さんが心配して声をかけてくれた。
「小巻って、本宮の事が苦手なの?」
「そうじゃ無いんだけど、本宮君が私に絡んでくると心がスンってなるの。さっき腕を掴まれた時なんて、ホントは嬉しいはずなのに、嫌悪感のようなゾワゾワが湧き上がって…。今まで人こんな風に人と絡んだことが無いからかな?やっぱり私は人と関わっちゃいけない人なのかな?」
「確かに小巻に絡もうとする人は私以外いないけど、私はずっと小巻と友達でいたいと思ってるわ。もしかして、私と話してても心はスンってなるの?」
朝倉さんは入学してから誰にも声を掛けてもらえない私に、「見える人にしか見えない地縛霊かと思ったけど、生きてるよね?」と初めて声をかけてくれた人で。それからも、一人を好む私に必要以上に「一緒」を求めず側にいてくれる。
「いや、朝倉さんにはならないよ」
「そう、良かった。じゃぁ、本宮の何が小巻の心をスンっとさせるのかしら?あいつ、全く自覚してないけど、少女漫画から抜け出してきたような男だから、仕草とか行動とかイチイチ、イケメンのよね。だから小巻に対しても、イケメン出しちゃってるんじゃない?」
「そう!そうなの。本宮君って本当に少女漫画の中の人みたいにカッコよくて、本当に少女漫画みたいな事するんだけど。少女漫画なら、ドキッとかポッとかなるのに、私はそうじゃ無くて…。私ってやっぱり、何処かおかしいのかな?」
朝倉さんに話しながら落ち込むと、いきなり顎を掴まれて上を向かされた。
「どう?私がしても、心がスンってなる?」
朝倉さんはもう少しで唇が触れそうになるくらいに顔を近づけて、質問した。
「うん、スンってなったし、これ、イヤかも。悪戯で急に脅かされた時みたいに、びっくりしてはぁ?ってなる」
「じゃあ、これは?」
顎を掴んでいた手を離すと、私の頭を抱えて意外とがっしりしている肩に抱きかかえた。
「これは大丈夫。友達同士のハグって感じ」
「そう、小巻の中で何か境界線があるみたいね。ハッキリしたことは分からないけど、これから少しずつ探してみましょ」
「ありがとう、朝倉さん」
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