思い通りにいかないのが、恋なのね

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思い通りにいかないのが、恋なのね

 入学したての頃、教室の一番端っこの席で机に残された点をなぞると、次々と星座が出来上がり、密かに喜ぶ私に「小巻はそうやって、どっかの片隅で幸せを探してるのが、らしくていいわね」と朝倉さんが言ってくれて以来、私の小さな幸せ探しは続き、駐輪所に咲く一輪の花を愛でているところに、本宮君がやって来た。  私を見降ろす姿は、やっぱりドキドキするくらいカッコいいのに、頭をポンポンとされた時、今までよりも強い感情が沸き起こった。  イラっ!  本宮君の大きな手が私の頭を撫でる度にイライラは増していく。我慢しようとすればするほど、イライラは膨らんで。ついには、本宮君の手を払いのけ「二度と触るな」と捨て台詞まで吐いてしまった。  もうダメだ。好きな人の手を払いのけるなんて、嫌いだと言ってるようなもんじゃない。しかも「触るな」なんて止めまで。  終わった。  私が絶望を隠すことなく自席に着くと、朝倉さんが心配そうに話しかけた。  「本宮に何かされた?」  「うん。でも、本宮君は悪くないの。なのに、私、酷い事を…。もう、恋は終わりにするしかないのかも」  机に伏して話す私の頭を、朝倉さんは優しく撫でてくれた。  本宮君も同じ事をしたはずなのに、朝倉さんの大きくて温かい手は、傷ついた心を癒す薬みたいで、優しくて、沁みた。  それ以来、本宮君を諦めるため、出来るだけ校内で姿を見ないように過ごしていたのに、本宮君は私を探して誰も来ない校庭の用具倉庫裏までやって来た。私に近づいてくる姿は、やっぱりカッコよくて後ずさりしながら胸が高鳴った。  まだ、恋してるよ私。  本宮君が、憧れの壁ドンをして告白してくれたのに、告白された嬉しさよりも、壁ドンをされている現状の方が気になって、ムカムカして。体の中で生まれる嫌悪感をぶつけるように、心に秘めておくはずだった言葉を吐き出してしまった。  「本宮君の事は好きだけど。本宮君を嫌がる自分も居るの。だからもう、私に近づかないで」  これで、本当に終わってしまった。  校庭を横切り校舎に入ろうとする私を呼び留めたのは、朝倉さんだった。私は朝倉さんの顔を見ると、意外と広い胸に飛び込んで泣いた。  朝倉さんは何も言わずただ私を抱きしめて背中を撫でた。  「えっ!小巻さんと朝倉さんって、そういう関係なんですか?」  本宮君が私たちを見て驚きの声をあげた。  「どういう関係に見えてるのよ」  「朝倉さんって女装はしてるけど、身も心も男ですよね。その朝倉さんが小巻さんを抱きしめてるってことは、二人は付き合ってるとか?」  「確かに私は女装する男の子だけど、小巻の事は友達以上に思った事はないわ。小巻だって私の事、友達だとしか思ってないわよ」  「じゃあ、どうして抱きしめてるんですか」  「慰めてるの」  「慰める?フラれたのは俺なのに?」  私は首を横に振って否定した。  「ホント、世話が焼けるわね。ホラー漫画の幽霊みたいな小巻は、少女漫画が大好きなんだんだけど、少女漫画から出て来たような本宮のイケメンな仕草が受けつけないの。本宮と小巻の思いは同じだけど、今の二人じゃ付き合って行くのは難しいと思うわ。だから、まずは私を交えて3人で交際準備をしてみない?私は小巻の精神安定剤的存在で、本宮の励まし係。って感じでどうかしら?」  「朝倉さん…」  私は涙で濡れる目で朝倉さんを見上げて、感謝を伝えた。  「えっ?小巻さん、いいの?朝倉さんが一緒なら俺と付き合ってくれるの?」  私は朝倉さんの腕から抜けて本宮君に向き直り、真っすぐ目を見て伝えた。  「はい。まずは友達以上彼女未満の関係からお願いします」  「はいっ、喜んで!」  本宮君は眩しいくらいキラキラの満面の笑みで喜び、私を抱きしめようとしたが、私の後ろから伸びてきた、外と逞しい腕にそれを阻止された。  「そういう所よ、本宮」    少女漫画みたいな恋に憧れていた私、ごめんね。  現実は、そう上手くはいかないみたい。  了          
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