散花

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 だから、彼女を受け入れよう。そう思い込んだのが間違いだった。  隠されることのない悪意が、ヒソヒソ話は耳に届く。いつまでも繰り返される輪廻のように、私はただ少しだけ溜息の中に涙を隠した。  百合の花を枯らしてやりたい。  この無造作に咲き、一面を彩った園を殺したい。  私は今度こそ息を殺して、躊躇いもなくぐちゃぐちゃに踏みつける。根絶やしにするまで下品に汚す。足底に残る感触を快感に置き換える。あまりの興奮に目の前が真っ暗になっても、忙しなく容赦なく壊す。  息を切らして辺りを見渡すと、散花(ちりばな)になった高嶺の純白。  最後まで私に哀の瞳を向けていた。その眼には本当に私が映っていたのか分からない。ふと、泥にまみれクシャクシャになった便箋が鞄から顔を出していた。おそらく彼女が書いたに違いないだろう手紙には、血が滲むほどの謝罪の言葉で敷き詰められていた。  きっと、彼女も利用されていたに違いない。同じような扱いを受けて、仲間外れにされて、感情を弄ばれて。  ズルい。謝罪すれば自分だけが許されると思っている。私は引き返せないことをしてしまったというのに。そう思うと余計に腹が立ってきた。私は純白を嚙み、茜色に染め上げる。  どこまでも狡猾な百合園、私の居場所はどこにもない。同じようなことの繰り返し。残酷に赤黒く染まった私は元には戻れない。  散花になる。そんなことはしない。私は自分から命を絶つような花にだけはならない。園には荒みきった液体の痕。苦しみ悶える花の声が心地良い。  ようやく静寂に包まれたと思うと高笑いをして喉元にナイフを向ける。  ふと、私を嘘で愛してくれた純白の百合と目が逢った。  私はそこで初めて心から愛を覚えた。最期に見た景色は何よりも綺麗な鮮血の百合園だった。
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