散花

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散花

 百合の花を枯らしてやりたい。  この無造作に咲き、一面を彩った園を殺したい。  どこまでも甘ったるいフローラルな香りは脳にまで届けられ、どこまでも私を嫌悪する。次第に浸蝕は拡大して、吐き気を催す。そんな苛立ちを我慢できるはずもなく踏みつけると、靴底には花弁の感触が余韻のように残る。  たったこれだけのことなのに、肩の震えが止まらずに過呼吸のように気持ち悪い。何を焦燥している? 私は何も悪いことをしていない。罪を犯したわけでもない。  ただ、この純白の百合を汚しただけ。  形の崩れた百合が、壊された園がどこまでも監視のように私に目を向ける。それを払うためにも一歩踏み出せば、ぐちゃりと惨たらしい液体がどこまでも私の居場所を教えてしまう。逃げられない。もうどこにも逃避行できない。  正解の見つからない自問自答。  それを嘲笑う根。無意味な暴力が、差別がどこまでも私の居場所を奪う。まるで最初から仕向けられていたかのように裏切られ、その後は玩具も同然の扱いを受けた。  だから私は黒に染まる。復讐の意を胸に秘めてドレスを着飾った。ただしそれは呆気もなく、達成感もなしに遂げられる。むしろ、それすらも視野に入れられていたのだろう。何処までも私を殺そうと、罠に嵌めようと計算高い悪の華が仲間外れにするために。  もう痛いのは嫌だ。どこまでも届くことのない叫び声が、監禁部屋に虚しく響き渡る。  あまりに空虚なこの場所に、高嶺の純白だけは濁りも知らずに微笑みかける。悪魔のようにも思える優しさは、ただどこまでも私を包み込む。今度こそ、今度こそ信じて良い?  不安に駆られ自傷する。手首に刺さる棘から滴る痛みが心を落ち着かせる。何も違わない、同じ存在だということを証明してみせるのに知らんぷり。私の声はやはり届かないまま。  そう思っていたのに、高嶺の純白だけは私の言葉を信じてくれる。
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