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サニーディア
それから数日後、俺はいつもの酒場で適当にエールを煽っていた。
また世界から色が消えてしまった。
何をしていても、灰色に見える。
この絶望から、どうやって抜け出せばいいのか分からない。
もしかしたら、抜け出す気力もとうに放り投げているのかもしれない。
「……シルヴァさん」
おずおずとした声がかけられる。
この声は……いい加減覚えてしまった。
視線を向けると、目の前にはとんがり帽子の魔法使いが立っていた。
「また、お前か」
「はい。サニーディアです。この前は無神経なことを言ってしまって……すみませんでした」
彼は深々と頭を下げる。
どうせまた帽子が落ちるのだろうと思って、自然と手で押さえてしまった。
「あ……ありがとうございます」
「あれだけ冷たく突き放したって言うのに、お前は変わったヤツだな」
「あはは……よく言われます。でも、どうしてもお礼が言いたかったんです。シルヴァさんのおかげで、薬が買えました。本当にありがとうございます」
「別に礼を言われるようなことじゃない。自分の食う分くらいあれば本来は足りている。余分を渡しただけだ」
サニーディアは俺の許可もとらずに、目の前の席へ腰かけてきた。
何か言おうと思ったが、言う気も起らずにそのまま仕草を目で追う。
「あの、僕にもエールをお願いします!」
「お前、まだ酒を飲むような年じゃないだろ?」
「心配しないでください。これでも成人していますから」
成人……つまり、少なくとも十九は超えてるってことか?
サニーディアは童顔のせいか、どう見積もっても十四、五くらいにしか見えない。
「だから、安心しておごらせてください!」
「いや、誰もお前と飲むとは一言も……」
「いいからいいから! ね?」
サニーディアが笑うと、俺の目の前にぱぁっと光が広がっていくのが分かる。
優しく包み込むような光ではなく、辺りを明るく照らす強い光。
強制するようなものではなく、自然と明るさを平等に与えてくれるような光だろうか。
サニーディアを見ていると、何故かミューンが重なって見える。
容姿も雰囲気も……何もかも違うというのに。
俺はこれ以上、彼を拒絶できなかった。
「サニーディアは不思議なヤツだ。俺みたいなヤツと関わってどうしてそんなに笑顔でいられる?」
「どうしてって……だって憧れの疾風のシルヴァさんですから。魔物を斬りつける姿は疾風のようで、その目で捉えることができないっていうあのシルヴァさんですよ?」
「分かったから、その二つ名で呼ぶのはやめてくれ」
ミューンを失ってから、人とまともに話したのは久しぶりだった。
それに、サニーディアと話していると俺の世界は色を取り戻していくのが分かる。
彼が話す度に、冷え切った心が温められていく。
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