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再び出会う二人
次の日も適当にゴブリンの群れの相手をしていると、わぁぁ! という叫び声が聞こえてきた。
この森には大した魔物はいないはずなのだが、たまに薬草を摘みに来た人が危険区域へと誤って踏み込んでしまうらしい。
急いで目の前のゴブリンを切り捨てると、悲鳴の聞こえた方角へと走る。
「止まって! 止まってくださーい!」
叫んでいるのは、黒のとんがり帽子が印象的な魔法使いだった。
もしやと思い、必死で杖を振る少年の側へと駆け寄った。
「あっ……」
「お前、魔法使いなのに魔法が使えないのか?」
「ええと、僕は魔法を唱えるのに時間がかかるんです。だから、本当は一人で戦えないんですけどどうしても欲しい素材があって……」
目の前にいるのはゴブリンでもブラックゴブリン。
先ほど俺が適当に狩っていたゴブリンの上位種に当たるゴブリンだった。
「仕方ない。俺がヤツを引き付ける。トドメはお前が刺せ」
「ありがとうございます! では、詠唱を始めます!」
少年はそう言って杖を構えると、呪文を唱え始めた。
俺は少年とのやり取りに懐かしさを覚えながら、ブラックゴブリンに決定打を与えないようにヤツの目の前で挑発しながら動き回る。
相棒のミューンは凄腕の魔法使いだったが、最初はやたらと詠唱に時間がかかっていたせいで俺が必死に囮になっていたものだ。
ブラックゴブリンはターゲットを俺に切り替え、棍棒を何度もぶん回してくる。
「さて、そろそろか?」
チラリと振り返ると、杖の先には大きな火の塊が集まっていた。
決定打となる魔法は完成したようだ。
俺は少年が目を開いたところで合図を送って、パッと横へ飛ぶ。
「行け! 炎よ!」
紡いだ言葉に呼応して、炎は一直線にブラックゴブリンを焦がした。
断末魔の叫びと共に、ブラックゴブリンは黒の塊となってその場へ崩れ落ちる。
「やった!」
少年は嬉しそうな顔をして、ゴブリンの残骸へと近寄ってきた。
すると、中からキラリと光る核を拾い上げた。
「出ました! この核があれば……あのっ、助けていただきありがとうございました!」
少年が律儀に頭を下げると、またとんがり帽子が地面へと落下した。
俺は思わず苦笑して、帽子を拾って彼へ手渡した。
「たまたま通りがかっただけだ。しかし、なぜ効率の悪そうな核狙いなんだ」
「お恥ずかしいんですけど、今すぐお金が必要なんです。薬を買わなくちゃいけなくて」
「薬? 誰か病気なのか」
「はい。お世話になった村長さんのお孫さんが流行病にかかってしまって。村は貧乏だから薬も買えないんです。だから、魔法の使える僕が出稼ぎに」
彼は寂しそうに笑う。
その顔が、何故か俺の心を揺さぶる気がして思わず固まってしまった。
「シルヴァさん……?」
「あ、ああ。悪い。お金なら俺も余っているから、分けてやる。だから、無茶はするな」
「そんな! だってシルヴァさんも必要ですよね?」
「別に。ただ何となく……身体を動かしているだけで、いつ死んでも構わない」
自嘲気味に呟くと、少年は驚いたような顔をしたあと目を潤ませて俺のことをじっと見上げてきた。
「そんなこと、言わないでください!」
「お前に言われる筋合いもないが、どうしてムキになる?」
「分かってます! 僕も何となく事情は風の噂で聞きましたから……それでも! きっと生きて欲しいと願っているはずです! あの、ミューンさんも……」
名前を出された瞬間、カッと怒りのような感情が湧く。
何も知らない相手に、しかも少年へ向かって感情を荒げるなど大人げないのは分かっている。
必死に感情を殺し、懐に手を突っ込む。
ひっつかんだ革袋を乱暴に少年へと投げつけて背を向ける。
「あ……」
「それはやる。だから、もう俺に関わるな。それを持って村に帰れ」
「ごめんなさ……」
最後の言葉を聞くことなく、俺はその場から逃げ出すように立ち去った。
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