サニーディア

1/1
前へ
/5ページ
次へ

サニーディア

 それから数日後、俺はいつもの酒場で適当にエールを煽っていた。  また世界から色が消えてしまった。  何をしていても、灰色に見える。  この絶望から、どうやって抜け出せばいいのか分からない。  もしかしたら、抜け出す気力もとうに放り投げているのかもしれない。 「……シルヴァさん」  おずおずとした声がかけられる。  この声は……いい加減覚えてしまった。  視線を向けると、目の前にはとんがり帽子の魔法使いが立っていた。 「また、お前か」 「はい。サニーディアです。この前は無神経なことを言ってしまって……すみませんでした」  彼は深々と頭を下げる。  どうせまた帽子が落ちるのだろうと思って、自然と手で押さえてしまった。 「あ……ありがとうございます」 「あれだけ冷たく突き放したって言うのに、お前は変わったヤツだな」 「あはは……よく言われます。でも、どうしてもお礼が言いたかったんです。シルヴァさんのおかげで、薬が買えました。本当にありがとうございます」 「別に礼を言われるようなことじゃない。自分の食う分くらいあれば本来は足りている。余分を渡しただけだ」  サニーディアは俺の許可もとらずに、目の前の席へ腰かけてきた。  何か言おうと思ったが、言う気も起らずにそのまま仕草を目で追う。 「あの、僕にもエールをお願いします!」 「お前、まだ酒を飲むような年じゃないだろ?」 「心配しないでください。これでも成人していますから」  成人……つまり、少なくとも十九は超えてるってことか?  サニーディアは童顔のせいか、どう見積もっても十四、五くらいにしか見えない。 「だから、安心しておごらせてください!」 「いや、誰もお前と飲むとは一言も……」 「いいからいいから! ね?」  サニーディアが笑うと、俺の目の前にぱぁっと光が広がっていくのが分かる。  優しく包み込むような光ではなく、辺りを明るく照らす強い光。  強制するようなものではなく、自然と明るさを平等に与えてくれるような光だろうか。  サニーディアを見ていると、何故かミューンが重なって見える。  容姿も雰囲気も……何もかも違うというのに。  俺はこれ以上、彼を拒絶できなかった。 「サニーディアは不思議なヤツだ。俺みたいなヤツと関わってどうしてそんなに笑顔でいられる?」 「どうしてって……だって憧れの疾風のシルヴァさんですから。魔物を斬りつける姿は疾風のようで、その目で捉えることができないっていうあのシルヴァさんですよ?」 「分かったから、その二つ名で呼ぶのはやめてくれ」  ミューンを失ってから、人とまともに話したのは久しぶりだった。  それに、サニーディアと話していると俺の世界は色を取り戻していくのが分かる。  彼が話す度に、冷え切った心が温められていく。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加