道は照らされる

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道は照らされる

「僕はカッコイイと思いますけど……って。シルヴァさん、あの……また僕が失礼なことを?」  サニーディアが慌てているので、どうしたのかと首を傾げた。  すると、サニーディアがおずおずと俺の顔へと手を伸ばしてくる。  指先で目元を拭われて、初めて気付く。  情けないことに、俺は涙を流していたらしい。 「はは……悪いな。いい歳した男に急に泣かれても困るよな」 「そ、そんなことはないんですけどっ! どうしよう……ええと、僕はあっちを向いてますから。その……泣きたいときはたくさん泣いてください」 「そうか、じゃあ甘えさせてもらうか」  サニーディアが本当に横を向きながら酒を飲む姿を見ながら、俺も飲みながら静かに泣いた。  張り詰めた気持ちはゆっくりと溶かされていくようで、少し涙を流したおかげかだいぶ心が穏やかになった。   「もう大丈夫だ」 「え、もういいんですか?」 「さすがに酒場で声をあげて泣くわけにもいかないだろ。気が済んだからもういいんだ」 「そうですか……悲しい時は年齢なんて関係ありません。僕だって、母が亡くなった時は三日三晩泣き続けました」  サニーディアが照れたように笑う顔が眩しくて、俺もつられたように久しぶりに笑った。  この感覚は……二度と味わいたいと思いたくなかったというのに。  俺はどうやら、サニーディアに惹かれているらしい。 『本当にシルヴァは……頭の回転が鈍い。だから、感情もついてこないんだ。もっと単純に、素直になればいい』 『そういうミューンは口ばかりだろう。いつも俺を動かしてばかりで……感情なんて二の次だ。いちいち感傷に浸っている場合じゃない。ああいうお嬢さんはお前が説得しろよ』 『説得するのと、人を動かすのはまた違う。俺がきっかけを作り、お前は行動する。それが一番いい。さすれば、感情も自ずとついてくる』 『それは表立って動きたくないだけだ。だが、俺は戦略を立てるより身体を動かす方が性に合っている。それも事実だ。分かったよ。俺が声をかけてくる』    ミューンの言葉を自然と思い出す。  声は穏やかでも、常に物事を見透かしているように口達者で腹が立ったものだが……ミューンは冷静でいつも正しかった。 『だからお前はうじうじと考えるな。迷わず動け。お前の道は必ず照らされるのだから』 『そうだな、相棒。俺は照らされた道を突き進む。それでいいよな。って、また適当なことを言って……全く仕方のないヤツだな』    道は照らされる――  ミューンから、迷わず生きろと言われているような……そんな気がした。
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