希望はいつも光の中に

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 腐敗臭や死臭が強くなってきた。このままでは、自らの身体全体が闇にずっぽりと呑み込まれてしまう。と、チェシリスは危惧した。 「闇に呑まれてはならないよ」  そう、頭の中でバンヒルの声が危惧した通りに優しく響いてきた。チェシリスは小首を傾げて、闇に呑まれるとどうなるのだろう? と考えようとしたが……。  突然、頭蓋骨に足を引っ掛け、バランスを崩して地面に肩肘をつけてしまった。  ムッとくる腐敗臭と、おびただしい柔らかい腐肉の感触とで、チェシリスは顔をしかめた。 「ほら、闇に呑まれる。さあ、立って」  バンヒルの今度は厳しい声が、頭の中で一際大きく響き。チェシリスは困惑した。  一体。闇に呑まれるとは?  どういうことなのだろう?  それは、転んだことと何か関係があるのだろうか?  チェシリスは急に、腐肉が勝手に動きだしたかのような錯覚と気持ち悪さを覚えた。そして、地面に散らばっている頭蓋骨も、闇の中でこちらに引き摺りよるかのような不気味な音が耳を襲ってきた。  辺りには、松明の明かりもなく。当然、陽の光すらも射さない。チェシリスにとって大切なのは、すぐに立ってから手探り状態でも耳をすませて、少しだけ大きな隙間風を聞くことだった。  それで、出口を探すことが、ここでは何よりも重要だった。  場違いなほど大勢の足音が耳に触れた。  チェシリスは足音に耳を傾けた。  どうやら、大勢の足音は今いるところの右側からだ。 「行ってはいけないよ。さあ、反対側へ走るんだ。急いで逃げるんだよ」    チェシリスはその足音が気になって仕方がないのに、バンヒルの声に従い。立ち上がると左側へと走った。  無言の大勢の足音が追い掛けてくる。 「いけない! このままでは、闇に呑まれる!」  バンヒルの大声が頭の中で叫んだ。  今度は、はっきりと頭の中で聞こえた。バンヒルの声は、この世のものとは思えないほど、凛々しく知的な声だった。    けれども、様々な腐敗した死体や大勢の足音は、次第にチェシリスの身体に纏わりついていった。 「すごい! 希望が生まれたんだね!」    バンヒルの驚きの声に、呼応したかのように、すでに闇に呑まれてしまったチェシリスの額には、一筋の光明が差し込んでいた。
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