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トレジャーハンターのこどもはトレジャーハンターになる。大きな山には財宝がある。昔は当たり前の事実であった。だが今は違う。自分にこどもがいたらトレジャーハンターなんかになって欲しくないしあるかどうかもわからない財宝なんかに目を光らせないで欲しい。でも、自分のこどものことだから同じように夢を追い求めるのかもしれない。そんなことを考えている中、船は島に向けて進む。広い海の中心に山をそのまま置きましたとでもいうような島である。
船の中には私と長い付き合いの私の助手であり、この船の操縦士でもある香山の二人だけである。「ようやく着いたな。」「ようやく着きましたね。」他愛無い会話である。「遠くで見ると小さく見えたのに、不思議なものだ。来てみると大きく見えるものだ。」「そうですね、陸にある山とは何か違う、オーラがでてるみたいだ。」何を言ってるんだか、と思いながら山を見上げる。確かに他の山とは違うようだ。
ゆっくりと舟をとめ上陸する。この島は昔財宝の奪い合いとして、海賊同士の戦いが起こった。近くには、その名残と思わしき錆びた剣や盾がある。「さて、どっからいきます?」香山が辺りを見まわしながら言う。「そうだなぁ、とりあえず頂点を目指して登ってみるか。」私はそう言いながら山に向けて歩み出す。今までいろんなところに財宝を求めて行ってきたが、こんなに自然豊かで空気もいい島はなかなか無い。香山は特にこうい
う所が好きだったはずだ。「トレジャーハンターを辞めたらこんな感じの島に住みたいんじゃ無いか?」香山に聞く。「そうですね。」ずっと二人でやっていきたいなどという言葉を待っていた私にはシンプルすぎる言葉で少し寂しさも感じるくらいの答えだった。
一時間ほどかかっただろうかやっとのことで頂上に着いた。「この他の島がない海だけの景色もいいもんだな。」香山もゼハゼハいいながら景色を眺めている。「問題はこっからですね。上についたものの、目立つものはないですし。」どうしたものか、あまりにも手がかりがなさすぎる。頭を捻らせていると香山がある場所を見つけた。「あそこ、少し木が生えてない所がありますよ。」私達が登ってきたのと逆、少し降った先である。そこに向けて今度は降りる。
降りた先、そこには人が一人通れるくらいの洞穴があった。「これは入るしかないですね。」私は少しかがんで中に入る。空気が薄く、肌寒い。突き進むと狭かった道がだんだん広くなってきた。「これは自然にできた穴ではないな、戦いよりも前におそらく誰かが開けたものだろう。」二人ではなしながら奥に進むと、どん、と突然入り口のほうかから音が響いた。急いで走って戻る。さっき私達が入ってきた道が複数の岩によって阻まれていた。
その微かな隙間から声が聞こえる。「何しにきた。またこの土地で戦いを起こすつもりか。私達の生活をぶち壊すつもりか。お前らトレジャーハンターは自分達の事しか考えない、ただのクズだ。そこでくたばれ。」およそ十歳から十二歳程度のこどもだ。「私達はそんなことはしない。この島で昔何があったかは知らない。だが、所構わず財宝を奪い、自然を傷つけ、人を傷つけるのはトレジャーハンターではない、海賊だ。この洞窟も勝手にできたものではないだろう、この島の財宝を求めた海賊達の仕業だろう。私達は誰かを傷つけるなら財宝なんて諦める。」私は必死に熱弁した。助かりたいというより、誇りを持っているトレジャーハンターという仕事を傷つけられたことに対する怒りからだろう。「お前らが何の仕事をしているかなんざどうでもいい。僕には、僕たちには関係ない。」そう言い残し、そのこどもは私たちの話を聞き入れずここを去っていった。
「どうしようか…。」しばらくの間沈黙が続く。すると香山が口を開いた。「とりあえず今できることをしてみましょうよ。どこか地面が脆くなっていて抜け出せる所があるかもしれないですし。」「そうだな。探してみよう。」
その後数時間後二人で崩れそうなところを探し、持っていた道具で土を削った。「もうあれから結構経ちましたね。地上まであと何メートルくらいかな。」香山がぼそりとつぶやく。それからも二人で掘り続けている時、その時だった。私の土を掘っていたスコップに何か岩や土とは違う固い何かが当たった。その辺りの土を二人でかき分けた、するとそこには眩くひかる金の原石が覗いていた。「こ、これは?これが財宝の正体ってこと?」香山が慌てながら話す。「周りも掘ってみよう。」近くを掘ってみるがその金の原石はどこを掘っても現れ、全て繋がっていたのだ。「俺たちが探していた財宝はこの島のどこかに隠されているというものではなかった。この島自体が財宝だったんだ!」私の中で全て繋がった。戦いの後、この島に財宝は見つからなかったらしい。おそらく地上から掘っただけでは見つけられないほどここは深い場所なのであろう。そこまで行くことが難しい島でもないのに、こんなに長い間財宝の噂が絶えなかったのもよくわかる。この洞窟は、金を掘るためのここの島のやつの通路ってわけだ。「この金を全て掘ってしまえばおそらくこの島は地盤ごと崩壊しまう。あのこどもはそれを恐れていたんだろう。」二人が金の出現に驚いているなか、大きな銃声が聞こえた。私達はその後数十分かけ、さっき掘ったところから抜け出せそうなところを掘り、やっとのことで洞穴から脱出した。
周りは入ってきた時とはかなり違った。木が倒され、火が辺りの草を燃やしていた。「ひどい。酷すぎる。」「海賊がこの島の財宝を求めてきたのか。大変ださっきのこが危ないぞ。急いで探そう。」山の中、火の中を私達は走り抜けた。森を抜けた先、少しひらけた場所に、さっきの子と知らないおじいさんが倒れていた。「大丈夫か!?」私達は二人で詰め寄った。持っていた医療道具で二人を看病した。するとその子が私達の方を向き、「どうして助けてくれる。お前らもあいつらと同じこの島が目的なんだろ。」といった。「さっきも言っただろ。私達はあいつらとは違う。トレジャーハンターだ。みてみろ、あいつら私達がどうにかして追い返してみせる。」すると、その言葉を聞きやっとその子は何が起こったか話してくれた。「およそ十人くらいの海賊達がこの島の財宝をさがすため、木を切り倒したり、火をつけたりしていた。そんなものを見逃すわけにはいかない。僕は弓で戦おうとした。だがあいつらは銃を持って迫ってきた。そしてあいつらは俺に向けて銃を撃った。あいつらの流れ弾が僕のじいちゃんに当たった。僕たちに拷問まがいのことをしたが諦めて財宝を探しにいった。」なるほど、「それなら、あいつらは時間が経てば俺らの入っていた洞穴に気づくはずだ。あそこの近くに罠を仕掛けてみよう。」おじいさんは香山に任せ、私とこの子で洞穴の方へ向かった。「お前、名前は?」私が聞く。「名前、、、生まれた時から両親が死んでてじいちゃんは喋ることができないんです。名前なんて知らない。」「そうだったのか、すまないことを聞いたな。」「いや、別にいいんですよ。」すぐ、先ほどの洞穴についた。幸いまだ海賊達はここに気がついていないようだ。二人で入り口の穴を急いで塞いだ。「私は罠とかの工作は得意なんだよ、任せてくれ。」私はあやしい木箱を用意し、その周りにいくつもの罠を仕掛けた。近くに隠れ、海賊達を待つ。すると、海賊達はあらわれまんまと近づいた。木箱に触れた瞬間さまざまな罠があいつらを襲う。混乱して逃げようとした奴がまた違う罠にかかる。「綺麗に全員捕まったなぁ。こいつら、どうしてやろうか。」私は考えた。「私達が二人でこいつらを連れて帰るよ。それでいいか?」「本当は復讐したいけど、しょうがない。お願いします。」
二人で海賊を連れ、香山とおじいさんが待つところへ戻った。おじいさんは地面に字を書いて、私達に感謝の意を伝えてくれた。「流石ですね。それにさても僕たちが先にこの島に着いて本当によかったです。危うく間に合わなくなるところでした。」しばらく話をして私は帰ることにした。するとおじいさんはまた地面に書き始めた。「お前はこんな所にいないでもっと世界を見てほしい。この人たちについて行きなさい。」孫に向けてであった。「でも、また海賊達がきたら誰がじいちゃんを守るの、、、僕はこの島を守る義務があるんだよ。」声を荒げて言う。すると、ここで香山が息を吸って決意した表情でこちらを向いて話した。「僕が残ってこの島と、君のじいちゃんを守る。初めてこの島に来た時からこの島が大好きだった。あんな奴らにこの島を壊されるのは絶対に嫌だ。昔っからこんな所に住んでみたかったんだ。」「お前、トレジャーハンターはどうするんだ。なりたかった仕事だろ。」「僕にはトレジャーハンターは向いてないみたいです。君の方がよっぽど向いているよ。」香山はこの子を見つめて話した。「僕の助手という仕事は君に託すよ。」目を潤ませながらいう。本当に勝手な奴だ。どうしようもない奴だ。
私と、こどもは香山とおじいさんを残し、この島を旅立った。
舟のなかで彼は私に、言った。「僕をあなたの養子にして欲しい。」私は少し驚いた。「分かった。今日からお前は私の助手であり、私の子だ。」なんだ、結局わたしのこどもはトレジャーハンターになるのではないか。昔も今も大して変わらないな。
「あと、一つだけお願いがあるんだ。」「何だ?」「僕に名前をつけて欲しいんだ。」なるほど、私は一晩悩んで次の日、名前をやっと決めた。宝の輝き、海の輝き、トレジャーハンターらしいいい名前だ。私のこどもの名前は海輝。彼が起きたら伝えよう。喜んでくれるだろうか。
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