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黒幕
1952年5月20日、明智小五郎は富田林の西に佇む洋館ホテルで、黒幕との決戦の時を迎えていた。ホテルの一室で待っていたのは、警察内部に浸透していた『月影』の後継者であり、高官でもある**牧村警視総監**。彼は長い年月をかけて、秘密結社『月影』を守り続け、さらなる陰謀を巡らせていた。
「全て見抜かれていたか、明智」牧村は冷ややかな笑みを浮かべながら、ホテルの窓際で煙草を吹かしていた。部屋には仄かな緊張感が漂い、明智は静かに椅子に座り、対峙する。
「牧村総監、あなたが黒幕だったとは驚かない。すべての符号が一致していた。黒田巡査は『月影』の存在に気づき、その秘密を暴こうとしていた。だが、彼を消すために手を汚すのではなく、彼の罪を愛人の手に委ねた。小早川千秋とその母親を操り、彼女たちが犯行を行うよう仕向けたのはあなたの仕業だ」
牧村は一瞬だけ表情を曇らせたが、すぐに笑みを取り戻した。「そうだ。黒田は秘密に迫りすぎた。そして、そのために始末する必要があった。しかし、私が直接手を下すのは愚かだ。私はただ、過去から続く『月影』の役割を果たしていただけだ」
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**決定的な証拠**
「しかし、あなたは一つ大きなミスを犯した」明智は冷静に語り続けた。「黒田巡査が残した手がかりだ。彼は『月影』の存在に気づき、その暗号を解こうとしていたが、完全には解読できなかった。しかし、私がそれを解読した」
明智はテーブルに一枚の紙を広げ、牧村に見せた。そこには、黒田巡査が残した暗号文があり、関ヶ原の戦いで暗躍した『月影』の策略と、その後の一族の動向が記されていた。黒田巡査は、自らの命と引き換えにこの証拠を残し、牧村の企みを阻止しようとしていたのだ。
「これは…黒田が…?」牧村は愕然とし、煙草を手から落とした。
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**明智の勝利と『月影』の終焉**
「そう、黒田はあなたの計画を阻止しようとしていた。だが彼は、あなたが黒幕であることに気づいてしまったため、口封じされた。彼は警察の腐敗を知り、さらに『月影』が現代に復活しようとしていることも察知していたんだ」
明智は警察に通報するために手を伸ばしながら、牧村に向かって続けた。「これであなたの終わりだ。あなたが築き上げてきた秘密結社も、ここで終わる」
牧村は抵抗することなく、静かに笑みを浮かべたまま手錠をかけられた。「ふん、たかが一人の探偵ごときにここまで追い詰められるとは…。だが、覚えておけ、明智。『月影』は滅びない。私の後にも、いずれ誰かが引き継ぐだろう」
だが、明智は冷静に答えた。「歴史は繰り返すかもしれないが、そのたびに正義がそれを阻止する。今回も、そして次も、必ず真実は暴かれるだろう」
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**事件の結末**
その後、牧村警視総監の逮捕は全国的なニュースとなり、『月影』という秘密結社の存在が表沙汰になることはなかったが、警察の内部調査が行われ、多くの腐敗が一掃された。黒田巡査の名誉も回復され、彼の勇敢な行動は称えられることとなった。
明智小五郎は事件解決後、再び静かな探偵生活に戻ったが、『月影』との戦いは彼にとって忘れられない一章となった。そして、彼は次なる謎へと再び歩みを進めるのだった。
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