明智小五郎とモルグ街の事件

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明智小五郎とモルグ街の事件

 東京、下町の静かな図書館で、明智小五郎は一冊の本を手に取っていた。その日、彼は読書に没頭していたが、ふと目に留まったのは、名家の没落を描いた一冊の歴史書だった。著者の名は、C・オーギュスト・デュパン。日本で言うところの、かつての名家出身であり、幅広い教養を持つ男の物語だ。  その時、ふとしたきっかけで隣の席に座ったのは、名家の末裔である中原修司という青年だった。彼は明智の知識と洞察力に感心し、すぐに意気投合する。二人は互いの考えを語り合い、文学や哲学、犯罪の本質について深く議論するようになった。  数ヶ月後、明智は中原と共に、古びたアパートを借りることに決めた。修司は彼の観察力と分析力を尊敬していたため、共に生活することが楽しみで仕方がなかった。ある晩、明智が黙考していると、修司が突然言った。 「あなたは、今、何を考えているのですか?」  驚いた明智は、その問いに一瞬言葉を失った。しかし、修司が述べたその内容は、驚くほど的を射ていた。彼の観察力と推理の巧みさに、明智は心を打たれた。  そんなある日、二人は新聞の一面に掲載された猟奇殺人の記事に目を止める。「モルグ街の惨劇」と題されたその記事には、母娘が惨殺された gruesome な事件の詳細が綴られていた。 「事件は、モルグ街の4階のアパートで起こった。娘は首を絞められ、暖炉の煙突に逆立ちの状態で詰め込まれていた。そして母親は裏庭で見つかり、首をかき切られていた」  明智は眉をひそめながら言った。「だが、部屋は荒らされているのに、金品はそのままだ。何か特別な目的があったのだろう」 「さらに奇妙なことは、部屋の出入り口には鍵がかかっていて、裏の窓には釘が打ち付けられていたということです」修司は続けた。 「人の出入りができない状況で、どうやって犯人は逃げたのか…」  その瞬間、明智はある考えに至った。「証言者たちの話も不審だ。一方の声は『こら!』とフランス語だったが、もう一方の声は異なる言語で証言されている」  二人は事件現場を訪れることにした。明智は鋭い観察眼で周囲を見回し、修司は彼の動きに食い入るように注目する。 「ここが母娘の住んでいた部屋か…」明智は呟いた。 彼は部屋の荒れ具合を確認し、暖炉の煙突に目を向ける。修司も、次々と証拠をメモに取りながら、明智の側で考察を重ねた。 「この煙突は、普通の大きさではない。娘が逆立ちの状態で詰め込まれるのは難しいだろう…」 「そして、何故金品がそのままだったのか」明智が思索にふける。  数日後、明智は再び新聞をチェックしていた。修司が部屋に入ってきた。 「新たな証言が出たようです。近所の人が、事件のあった時刻に、何か大きな音を聞いたと言っています」 「音か…。何か重要な手がかりになるかもしれない」明智は興奮した様子で言った。  彼らは改めて証言者たちに話を聞くことにした。すると、ある老婦人が、事件の直前に若い男が部屋に入っていくのを見たと証言した。 「その男は、何かを持っていたようでした。私ははっきりとは見えなかったのですが…」  明智はその話を聞いて目を輝かせる。「持っていたものが、犯行の道具である可能性がある。修司、私たちに必要なのは、この男を見つけ出すことだ」  数日間の調査の末、明智はついに犯人の手がかりを掴んだ。彼は、モルグ街周辺で目撃された男が、以前に犯罪歴のある人物であることを突き止めた。 「彼は、名家の没落をテーマにした小説を書いた作家でもある。何かその作品が、今回の犯行と関係があるかもしれない」  明智と修司は、作家の自宅へ向かった。彼の作品には、母娘の関係を扱った一節があり、明智はそこに何か意味を見出そうとしていた。 「彼は、母娘の関係に執着していたのかもしれない。何かの動機があったのだ」明智は思索を巡らせる。  最終的に、明智と修司は作家を追い詰め、彼の犯行を明らかにすることに成功する。作家は、過去のトラウマから母娘に対する異常な執着を抱いていたのだ。 「私が書いた物語のように、彼女たちを操ろうとしたのだ」彼は冷たく言い放った。  事件が解決した後、明智は修司と共に、再び図書館に戻った。彼はふと、修司の横顔を見つめる。 「お前との出会いが、私の人生に新しい視点を与えてくれた。感謝している」  修司は微笑み、明智の言葉に感謝の意を表した。二人は、新たな事件への挑戦を胸に抱きながら、未来を見据えたのであった。
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