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ロマノフ家のダイヤモンド
明智小五郎が「赤い蠍」と対峙する中、突如として彼の背後から声が響いた。
「やあ、小五郎さん、ここで会うとは思わなかったな」
静かに現れたのは、ワセダミステリ倶楽部の名高き創設者、**綿貫創人**だった。彼の目は冷静に周囲を見回しながら、小五郎に一瞬だけ笑みを向けた。綿貫は常に謎解きと推理を好む男であり、その鋭い知恵はかつて小五郎と数多くの事件でぶつかり合った。彼の登場は予期せぬものだったが、小五郎はその理由をすぐに察した。
「綿貫か。お前もロマノフ家のダイヤモンドを追っているのか?」
赤い蠍がニヤリと笑い、腕を組んだまま二人を見つめた。綿貫は落ち着いて頷いた。
「ええ、そうだ。魚津の蜃気楼に隠されたロマノフ家のダイヤモンドを手に入れるために、どうしてもここに来る必要があった。君たちも同じ目的か?」
小五郎は鋭い目で綿貫を見返しつつ答えた。「いや、俺はただ、この狂った世界で真実を掴むために動いているに過ぎない。それに…この件には**六歌仙の金屏風**も絡んでいるようだな」
「六歌仙の金屏風?」赤い蠍が興味深げに眉を上げた。「それは知らなかったな…だが、ロマノフ家のダイヤモンドだけで充分だ。お前たちはここで死ぬ運命にある」
綿貫は冷静に微笑み、懐から古い地図を取り出した。「いや、蠍くん。君が考えているよりもずっと深い謎がこの場所には眠っている。例えば、君はこの工場の地下に隠された**鉄道ホテル**の跡地を知っているか?」
「鉄道ホテルだと?そんなものは…」
「実在するさ。そして、隠し部屋に入るための暗号もすでに解けた。**6右2・11左3**だ」綿貫は静かに壁の一部に手を触れ、時計回りに6回右へ、そして逆方向に11回左へと操作した。
すると、巨大な音を立てて壁が動き始めた。その向こうに現れたのは、金と宝石が散りばめられた部屋の扉だった。赤い蠍の表情が一瞬で変わる。
「な…そんなバカな…!」彼は動揺し、手にしたナイフを振りかざして綿貫に飛びかかった。しかし、その瞬間、小五郎が素早く蠍の腕をつかみ、地面に叩きつけた。
「ここで終わりだ、赤い蠍。お前が犯した数々の罪、その代償を払う時が来た」
赤い蠍は苦しそうに呻きながらも、ニヤリと笑う。「まだ終わりじゃないさ。俺の後ろにはもっと強大な存在がいる…。お前たちはただの駒だ」
その言葉を残し、赤い蠍は意識を失った。小五郎と綿貫は互いに視線を交わし、静かな空気が流れた。
「どうやら、これで終わりというわけではなさそうだな」綿貫が呟く。
「そうだな…これからが本番だ」小五郎は再びタバコに火をつけ、深く息を吸い込んだ。
彼らが手に入れたのは、まだ一部の真実に過ぎなかった。蜃気楼、ロマノフ家のダイヤモンド、六歌仙の金屏風――そして隠し部屋。すべての謎がつながる時、この荒れ果てた世界の未来が決まる。
だが、その時まで、二人の探偵の戦いは続く。
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