悲惨な過去

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悲惨な過去

 百舌鳥にやって来た小五郎は昭和20年4月の出来事を思い出していた。サイボーグになった今じゃ怖いことなんてあまりなくなったが、あの頃は怖いことばかりだった。  大阪の**百舌鳥・古市古墳群**が薄暮に染まる頃、名探偵**明智小五郎**は、助手の**小林少年**とともに、事件の舞台となった古い屋敷に立っていた。現場は、大富豪の**青葉家**が住まいとしていたもので、悲惨な家族殺害事件の舞台となった場所だ。  百舌鳥の古墳群のすぐそばに建つこの屋敷は、かつて青葉一郎を筆頭とした名門一族が住んでいたが、今やその威光は失われている。彼の三男、**青葉英介**が父や長兄を含む家族7人を猟銃で射殺したこの事件は、世間を震撼させた。現地の新聞は「百舌鳥史上最も凶悪な事件」としてこの事件を報じ、地域全体が恐怖に包まれている。  だが、明智の推理は表向きの相続争いに止まらなかった。彼は事件の裏に、さらに深い謎が潜んでいると確信していた。 --- 「**明智先生**、本当に青葉英介がこの事件の主犯なんでしょうか? 相続の恨みだけでは、ここまでの惨劇を引き起こす理由としては弱いように思えます」小林少年は、冷たい風に身を震わせながらそう言った。  明智は静かに古墳群の方を見つめ、口を開いた。「確かに表面的にはそう見える。しかし、事件の裏には青葉家が代々抱えてきた闇があるはずだ。特に、この土地が持つ歴史的な背景…それが鍵になるだろう」  百舌鳥の古墳群には、かつてから封印された財宝の伝説があった。中でも、**ロマノフ家のダイヤモンド**がこの地に隠されているという噂が、明智の耳に入っていた。 「ロマノフ家のダイヤモンド…そんなものが本当に存在するんですか?」小林は驚いて明智に尋ねた。 「事実かどうかはわからない。しかし、青葉家がこの伝説を追い求めていたのは確かだ」明智は足元の古びた石畳を見下ろしながら続けた。「この事件は単なる相続争いではなく、ダイヤモンドを巡る一族の争いだったのかもしれない」 ---  やがて明智と小林は、屋敷内の書斎で一冊の古い日記を発見した。それは、青葉一郎が書き残したもので、彼がロマノフ家のダイヤモンドを探し求めていた記録が記されていた。 その日記には、次のような暗号が書かれていた。 「**6右2・11左3**」  明智は眉をひそめた。「これだ。隠された財宝にたどり着くための鍵は、この暗号だ」 「これって、何の意味なんでしょうか?」小林は日記を覗き込みながら尋ねた。 「おそらく、これは屋敷内に隠された隠し部屋への扉を開けるための指示だろう」明智は冷静に答えた。「6右2、11左3…まるで金庫のダイヤルを回すような手順だ」 ---  二人は日記の示す通りに屋敷内を捜索し、やがて壁の中に隠された古い金庫を発見した。金庫のダイヤルに、暗号通りの手順でダイヤルを回すと、重厚な音を立てて扉が開いた。  そこには、青葉家が代々隠してきたという**ロマノフ家のダイヤモンド**が輝いていた。 「これが…」小林は言葉を失った。 「そうだ。これが、すべての悲劇の始まりだ」明智はダイヤモンドを見つめながら静かに言った。「青葉英介は、父や兄に疎まれ、家族から追い出された。しかし、彼はこのダイヤモンドを手に入れることで、自分の人生を取り戻そうとしたんだ」 ---  最終的に、明智は青葉英介の動機を暴き出した。彼は相続争いだけでなく、家族の中で自分だけがこの宝を手に入れるべきだと信じていた。事件は、財産争いに秘められた歴史的な宝物を巡る欲望と悲劇だった。  英介が逮捕される日、彼は静かに明智に向かってこう呟いた。 「私は、ただ取り戻したかっただけなんだ…家族と、自分の人生を」  その言葉に、明智は何も言わず、ただ黙ってうなずいた。  事件は解決し、ロマノフ家のダイヤモンドは警察に回収されたが、百舌鳥の古墳群には、まだ多くの謎と伝説が眠っていることを、明智は感じずにはいられなかった。
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