50円玉20枚の謎

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「私の推測ですが」と、私は前置きしてから答えた。「その男は50円玉を重ねて凶器に使ったのではないでしょうか? 例えば、ブラックジャックのように。そして、証拠を隠すために再び1000円札に戻したのかもしれません」  二人は一瞬顔を見合わせ、次の瞬間、同時に声を上げた。「それだ!」 「そうか、確かにそうだった! 最後はアルバイトがそれに気づいて、50円玉を見るたびに恐怖する話だった!」  運転席に座る私は、少し照れくさい気持ちになった。あくまでも推測だったが、どうやら彼らの記憶の中ではその答えがしっくりきたようだった。 「運転手さん、ありがとうございます! あなたのおかげでモヤモヤが晴れましたよ」 「いえ、たいしたことではありません。ミステリー好きとして、楽しんで推理できただけです」  二人は満足そうに頷き合った。車内には心地よい沈黙が流れ、私は再びハンドルを握り、目的地であるカレー店へと車を走らせた。  ふと、亡くなった父のことを思い出した。この物語を書いたのは、他ならぬ父だった。無名のアマチュア作家として、彼は数々の短編ミステリーを書いていたが、どれもあまり広まらなかった。  この『50円玉20枚の謎』もその一つだ。父の作品が、今日こんな形で人々に語られているとは、思いもしなかった。  私は胸の奥に温かいものを感じながら、タクシーを停め、二人を店の前で降ろした。「どうぞ、ごゆっくりカレーを楽しんでください」  二人は笑顔で手を振りながら、「また何かあったら、ぜひこのタクシーを利用します!」と言って、店の中へ消えていった。  彼らを見送った後、私は静かに父の記憶に感謝を捧げ、再び神保町の街を流し始めた。今日もどこかで、父の作品が語られる日が来るかもしれないと、期待しながら。
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