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祖父と祖母
祖父の雅号は“山彩”
“山彩る”に因んでつけたという。
油彩画や水彩画、手法を変えても描くのは決まって『山』だった。今まで描いた作品すべて山が題材であった。
そんな祖父に対して“山に取り憑かれている”などと皮肉混じりに評される始末。だが祖父は他者からの評価など気にも掛けず、ただただ一心に山を描き続けた。
子供の頃、両親とともに祖父母の家へ訪れたことは何度もあった。夏休みや冬休みなど長期休暇に何日か泊まって過ごしたこともある。だが一度として祖父と一緒に出掛けたり遊んだ記憶はない。思い出の中にあるのは、作業部屋でキャンバスに向かって絵を描く祖父の後ろ姿だけ。母から“おじいちゃんの作業部屋には入らないで”と言われていた俺は、部屋の外から祖父の姿を見ることしかできなかった。
その代わりだったのか、祖母はよく一緒に遊んでくれた。両親の二人だけの時間を作るための気遣いか、ただ単に孫と一緒に過ごしたかっただけか。真相は今では分からないが、近所の川や野原へと手をつないで連れ出してくれた。
その時に尋ねたことがある。
「おじいちゃんは有名な画家だって、みんながすごいねって言うけれど、どうしてぼくの絵を描いてくれないの?」
祖母は目尻を下げ、柔らかな笑みを浮かべて優しい声で答えた。
「おじいちゃんはね、不器用な人なの」
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