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葬儀の準備は母と父がおこなっていた。
“住み慣れた家に帰してあげたい”という母の願いで祖母は自宅葬となり、病院から祖父のいる家へ搬送された。
出迎えた祖父は祖母の遺体を一瞥したあと、何か言葉をかけるでもなく足早にその場を立ち去り作業部屋へと入って行ったらしい。
お通夜も葬式も滞りなく進められた。
そのとき近くに座っていた祖父は、眉をひそめて口を真一文字に結び、腕を組んでずっと目を閉じていた。子供だった俺にはその姿が酷く不機嫌なように見えて。葬式が終わるとすぐに腰を上げていつもの作業部屋へと向かった祖父に、薄情者だと心の中で嫌悪していた。
参列していた人の話し声を聞いていても祖父に対して非難するようなものも多く。
「勉さんったら人の心は無いのかしら」
「亡くなった八千代さんが可哀想」
「画家としての才能があっても人としては最低だ」
親族に聞こえないよう最初は声をひそめて話していたようだが、話が盛り上がるにつれてその配慮も最後には無くなっていた。
そのとき俺は母に尋ねた。
「おじいちゃんはおばあちゃんのことが嫌いだったの? どうして泣いたりしないの? 悲しくないの?」
母はいつかの祖母のように柔らかな、だが泣いて少し赤くなった目で微笑んで答えた。
「おじいちゃんはね、不器用な人なの」
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