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オーバーツーリズム
今年のシーズンも、もう終わろうとしている。数年前から、急に、人類が私の頭をめがけてくるようになった。おそらく、足元でなにか異変が起こったのだろう。私の頭の上など、何もない。ただ、天が広がるのみである。
人類は、私の頭に何を求めているのだろうか。ただ、虚ろな火口があるだけだ。そこに大挙してやってくるだけでなく、一世一代の大パーティーのように過ごしていく。足元から登ってくるのは良いが、私の頭の上は狭い。どの方角から登ってきても、辿りつくのは私の頭の上だ。まるで、アリ地獄に落ちるかのように、人類がこの狭い頭の上に集まってくるのだ。
登ってくるのは、私としても、かまわないのだ。しかし、これほど多くの人類が歩いてくるとなると、私の体もダメージを受けてしまう。森林地帯では植物が踏み荒らされ、森林限界より上は落石の危険が高まっている。更に人類の面倒くさいところは、物を食べて排泄することである。そのせいで、私の体も頭の上も不衛生な状況になってしまっている。排泄のみならず、高地に対応できない人類が、そこらじゅうで嘔吐するのだ。なぜ、そこまでして、私の頭の上に来ようとするのか?全く理解できない。
そろそろ、私も、我慢の限界に達している。ここらで、一発、天誅でも下してやろうか。私も生きているのだ!!!
「ニュース速報です。本日、富士山が噴火しました。数年前から微弱な地下活動が観測されていましたが、噴火の兆候は見られませんでした。そのため、入山者の制限はされておらず、本日もシーズン最終の週末とあって、数千人の登山者が巻き込まれたと考えられます。噴煙が上空高くまで上がって広がり、火砕流も発生しています。現在、富士山に近づくことは大変危険で、救助活動も困難を極めている状況です。今後も噴火が続く恐れがあるので、近隣の市町村には避難指示が出されており…」
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