世界を救う万の方法

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「……先日、オオトカゲの任務があったでしょう?あの時ね。わたくしは、叱られても仕方ないことをしたのよ。どんな理由であれ、任務開始時間を誤魔化すのはやってはいけないことだわ。遅刻したなら遅刻したと、正しく報告しなければいけない。その理由も含めてね」 「でも、それはキコのために……」 「なってないのよ。わたくしたちの任務は、一分一秒を争うわ。たまたまあの日は砂漠エリアだったから、少し遅れても人的被害が増えることはなかったというだけ。そして正確なデータを提出できなければ、わたくし達のために情報収集して作戦を立ててくれる後方支援の人達がとっても困ったことになるの。……でもって、ナツメはあの日、キコさんではなくわたくしの方を真っ先に、きつく叱ったでしょう?それも正しいことよ。彼女もわかってるの、女性だから。突発的な生理トラブルはありえることだってね」  だからキコには解決策を簡単に指示しただけだったでしょ、とシャルロッテ。  言われてみれば、確かにそうだ。遅刻の原因であるはずのキコより、明らかにシャルロッテの方がきつく叱られていたような。 「リーダーであるわたくしを先に叱るのも間違ってない。それと……ユナさん、あなたを叱ったのも正しい。わたくしも、本当は……もっと安全な射撃をして、って言わなければいけなかったの。でも貴女がとても緊張していたこと、頑張っていたことを知っていたから言い出せなくてね。そしたら、ナツメが代わりに言ってくれた」  はあ、と彼女は深くため息をついた。 「いつもそうなのよ。ナツメは、わたくしが言いたくても言えないことを、いつも代わりに言ってくれる。それで……わたくしがフォローする、という方向に持っていってくれているの。何故かわかる?あの人ね……自分が嫌われ者を演じて、誰かを立てるのがうますぎるのよ」 「え、え?ナツメ、さんが?」 「実際、あの人が厳しすぎるから、わたくしがとても優しく見えているのではなくて?」 「あ……」  確かにそれは、あるかもしれない。人間、何でもかんでも比較でものを考えがちだ。  思わず、紅茶のカップに視線を落とす。空になったサンドイッチのバスケットの横。少し残っている赤い海に、困惑した私の顔が映っている。 「この間の上司の時もそうだわ。……人間、自分より怒っている人がいると怒りが吹っ飛んでしまうものなの。だから、上司が叱る前に、彼女がマコモを叱ったのよ。あの上司がセクハラやパワハラ的発言をしようとしていたことに気付いたんでしょうね」 「そうだったんですか……」 「実際、毒気を抜かれたせいで、厳しい処分も出なかったでしょう?……わたくしもそれがわかっていて止めなかったのよ。実際、整備不良は本来あってはならないミスだしね」  知らなかった。  あのナツメが、自分達仲間のことをそんなに考えてくれていたなんて。
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