2人が本棚に入れています
本棚に追加
「し、渋谷課長!!! た、大変です!」
朝食に起きてきた渋谷課長に向かって、リビングにいた波瑠は真っ青な顔で言った。
「せ、世界が破滅するかもしれません!」
「えっ?」
渋谷課長は、パリッと着こなしたいつものブランドもののスーツ姿で、ポカンとしてしまった。
渋谷課長が、ポカンとすることは珍しい。
いつも、隙なく、無駄な行動なく生きているからだ。
しかし、渋谷課長は、妻の波瑠の行動には、正直仰天することが多い。
今日も朝から、いきなり訳のわからないことを言っている。
渋谷課長は、ポカンと開けた口をいつものように引き締めてから訊いた。
「世界が破滅するとは、どういう意味なんだ?」
「だ、だから! 新聞の朝刊に出てるんです! 翔子さん、、椿総理宛の脅迫状が!」
「えっ?!」
これには、再び渋谷課長も驚いた。
総理大臣の椿翔子は、渋谷課長の義理の姉である。
「見せなさい!」
渋谷課長は、波瑠が握りしめていた新聞を取った。
確かに、第一面にデカデカと、『椿総理へ脅迫状! 世界の破滅か? 愛する夫か?』と出ていた。
渋谷課長は、詳しく新聞の文面を読んでみた。
椿総理大臣宛に「核戦争を起こして世界を破滅させないと、最も愛する人間を殺す」という内容の脅迫状が送られてきたと、確かに書いてある。
椿総理の最も愛する人間といえば、夫である兄の圭のことだろう、、。
渋谷課長の四人兄弟の三男の圭は、もと椿総理のSPだったが、今は椿総理と結婚して専業主夫となり椿総理を支えている。
「これ! 圭さんのことですよね?!」
波瑠が、悲鳴のような声で叫んだ。
「ああ。おそらくそうだろう」
渋谷課長は答えた。
「なんてこと、、! でも、あたしっ! あたしっ! この世が滅びても渋谷課長と一緒なら怖くありません! でも、もう、その前に真也と一緒に三人で先に死にましょう。核戦争は、やっぱり怖いです!」
真也は、二人の愛する子供である。
まだ、一歳にもなっていない。
「波瑠、、。まあ、落ち着きなさい」
渋谷課長は冷静に言った。
「まず、世界は破滅したりしない」
「えっ? どうしてですか?!」
「今、警察や総理官邸、それに椿総理自身が必死に脅迫状の犯人探しをしているはずだ。それに、、」
「それにっ?!」
「兄の圭が黙って大人しくしているとは思えない。元SPの敏腕警察官だ。圭兄さんに任せておけば、きっと解決してくれるはずだ」
波瑠は、安堵のため息をついた。
「そうでした! 圭さんは、元警察官でしたよね! きっとなんとかなりますよね?!」
「ああ。そうだ。しかし、、波瑠、この荷物の山は何だ?」
波瑠の足下には、うずたかく食料品が、積み上げられていた。
しかし、みんな、お菓子のビスケットの『ビスコ』であった。
「何なんだ、波瑠。このビスコの山は?」
波瑠は、自信満々に答えた。
「渋谷課長! どんな災害時にも、非常食はビスコでいいそうです。たとえ、核戦争が起こって生き残ったとしても、ビスコがあればきっと大丈夫です! それに、あたしビスコが大好きで、毎日食べても飽きません!」
「波瑠、、」
渋谷課長は言葉を失った。
非常食を揃えるにしても、普通もっと深く考えるものだろう、、。
しかし、渋谷課長は、こんななんだか突拍子もない妻だが、深く愛している。
渋谷課長は、ただ、こう言った。
「世界がたとえが破滅しても、私は君を愛しているよ。波瑠、、」
それを聞いた波瑠は、自信満々の笑顔で、渋谷課長に向かって叫んだのだった。
「渋谷課長!!! あたしも愛してます!!! たとえ世界が滅びようと、渋谷課長のことは、あたしとこのビスコが守って見せます!!!」
『世界が破滅しても旦那様💘を愛してる❣️』
end
最初のコメントを投稿しよう!