3  我儘言ってんじゃねーよ

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3  我儘言ってんじゃねーよ

    まず、ブログ内に並ぶタイトルを見てみる。彼はどうやらブログを月に2、3本の割合でしか投稿していないようで、ブログを始めた2月から現在までに計・8日分のブログが載っているようだった。 「まだ書き始めて間もないって感じか。」 縦に並ぶタイトルを目で追ってゆく NEW『学校に行きなくない』 『めっちゃセンセに怒られた笑やば』 『皆とカラオケ』 『高校生』 『合格しました』 『無事解決!そして晴れて卒業!』 『母と少し揉めました…』 『僕の悩み』  早速そこから、下の一番古い日付である『僕の悩み』と書かれたブログページをクリックして見てみる。 『早速、書いていきたいと思います。今、僕は学校から高校受験について色々言われてます。ぶっちゃけ、僕は全然勉強は駄目なのでせめてスポーツ推薦で行けるとこを探そうってことになりました。お母さんは、僕みたいなやつは賑やかな場所は合わないんじゃないかと言って、なるべく偏差値の高いところに行くようにと言ってきます。 でも、僕自身は全然賑やかな場所は苦じゃないのできっと、お母さんが勝手に良い高校に出てもらいたくて言い訳?みたいな感じていってるんだと勝手に思ってます。偏差値の高いところに行ったら、めちゃくちゃ頭のいい人ばっかりの環境になるから、そっちの方が合わないんじゃないかなと思います。なんだか将来のこととか考えると頭がぼやややあーみたいな感じになる。同じ人いますか?』 この日のブログでは、主に高校受験に対しての不安が書き込まれているようだ。どこかまだ、ブログに慣れていない初々しい雰囲気がある。気になったのは、彼の母親が『僕みたいなやつは賑やかな場所は合わないんじゃないか』と言及しているところだろうか。  確かに昼間、彼と話しているときもどことなく騒がしい他のクラスメイトとは違う雰囲気があった気がしなくもない。お調子者で薄っぺらいような話をしているかと思いきや、いきなりマイナーなアメリカの文学作家の人生について話し始めたりと知的好奇心が、まだ、他のクラスメイトよりもある気がする。  彼の母親は彼のそのような部分について触れていたのだろうか?  夏にはさらにもう一つ、印象的な部分があった。  『なんだか将来のこととか考えると頭がぼやややあーみたいな感じになる。』  という部分だ。  この感じは夏がダンボールを開封しようと思っているのに体が動かないときのあの感覚によく似ている気がした。  どこか熱っぽいような、自身の体が頼りなく感じるふわふわした感覚。    「もしかしたら、彼の悩みと、私の悩みは何処か、リンクしているのかもしれない。」  と夏は少しぼんやりしてきた頭で考えた。    もう、頭が疲れてきたのかもしれない。しかし、今ここで彼のブログを読むのを辞めてしまえばなんの成果もない。  夏は頼りにされている(かもしれない)という使命感から、口うるさい英語の大柴から出されていた宿題そっちのけで、頭をスマホの画面に集中させる。  彼のブログはその後は、とりとめもないことが綴られていっている。  高校生に無事、なれたこと。その際母親は少し心配そうだったがやっぱり自分にはスポーツ推薦で偏差値の高い高校に入るより、こっちの学校のほうがいいということ。無事、友達も作れたことで母親は安心しているようだということ。  夏はこの、『推薦で偏差値の高い高校に入るより、こっちの学校のほうがいい』という考えが分からなかった。というより、少し羨ましかった。夏は例の、行きたかった少しハードルの高い学校を推薦で候補したのだが、それも中学の教師に断られてしまっていたことを思い出していた。挙げ句の果てに事故で落ちてしまい、渋々今の学校に入ったのに、彼にとってはこの学校の方がスポーツ推薦で入れるかもしれなかった学校よりも価値があると言っている。なんとなくそれが夏には嫌味に写った。  「我儘言ってんじゃねーよ。」  と、空に向かって悪態づいてみる。夏にとって彼のことは、特別好きでも嫌いでもない、仲良くなれそうな雰囲気が少しはあるだけの所詮はクラスメイトだ。多分、向こうも夏のことをそう認識しているのだろう。しかし、なんとなくそうは思っていてもいざ、頭で反芻してみると少し寂しい。夏は少しの孤独を感じた。
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