7  それじゃあもう行くから

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7  それじゃあもう行くから

    夏の誕生日パーティは、母親と夏の二人で自宅にてまったりと、和やかに行われた。  夜中、もう寝るからと母に伝え、自室に戻り窓を開けると、自動車のブロロロッというエンジン音と初夏らしい爽やかな夜風が夏の自室に忍び込んできた。  「確か約束の時間は20時…。」  スマホの時計を確認すると時刻は20時8分を示していた。  「熊本くん、遅いなぁ。事故にあってないといいけど…。」  心配する夏を他所にスマホは20時12分を示し始めた。そんな中、  「おーい!!」  と、住宅街の静かな空間の中で聞き覚えのある声が響き渡った。慌てて夏は、しーっと指を口の前で当てる。  やべえやべえと慌ててる熊本くんに夏は、  「待ってて、今降りるから。そっちの方が話しやすいでしょ。」  と小声で伝え、音を立てないようにとゆっくりと玄関のドアを開け、外へ出た。  「わりいっ、ここらへん結構入り組んでてさ、迷っちった。全然役に立たねーのな。このカーナビ。」  熊本くんはいつもの調子で自身のスマホのカーナビ画面を指差しヘラヘラしている。  夏はそのいつもの彼らしい様子に、どこがほっとしていた。すぐに心の安定が保てるというものではないだろうが、少なくとも今の彼は私との約束を守れたことへの安堵感でいっぱいといった様子だ。  夏は普段、屋上で話すようなこともないようだと、どのように彼と話をしたらいいのか分からずただ、熊本くんに合わせてニコニコと微笑んでいた。  そんな夏の様子を察してか、彼は薄手のカーゴパンツのポケットから、小さなプレゼンボックスを夏に渡した。  「やるよ、それ。上手いんだぜ。結構。」  夏はそう言われて、その場でボックスを開封してみる。中から出てきたのは指輪の形をした懐かしいキャンディだった。  「また随分と懐かしいものを…。」  「いいべ?ボックスにも合うしな。ちな、そのボックスと合わせて100円と数十円。ボックスは百均だしな。」  「随分と安上がりな女と思われているようねぇ。」  「いいじゃん、弟からのプレゼントぽいべ?怒んなよ?ねーちゃん。」  そう悪態づきながら、彼は何時もの調子でえへへと笑い、私も何時ものようにふふふと笑った。    「じゃ、俺もう行くわ。かーちゃん心配するといけないし。」  「そっか、あんまり無理すんじゃないよ…藤谷。」  「なにそれ。」  「姉と弟みたいでしょ。」  「なるほどな、わーったよ、うるせーなぁ。夏姉。」  「何じゃそりゃ。」  「お前が言うか。」      そう言いながら彼はくらい住宅街の中をシャーという音を立てながら姿を消していった。    その2日後、彼は静かにこの世から去った。  
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