さよなら、好きだったよ

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 鏡の前で、丁寧に髪を梳かす。控え目メイクで、つやつやの髪。  鏡に映るあたしは、完璧な仕上がりだった。どこから見ても、清楚で謙虚で、そう、大企業を継ぐ御曹司の彼女としてもバッチリの。  バス・トイレが一緒のユニットバスから出て、部屋の最終チェックをする。  古い1DKの、あたしの住むアパート。  玄関を開けたらすぐの狭いダイニングキッチン。  2人がけのテーブルには手料理……にしか見えない、お皿に盛りつけたお惣菜。この日のために買ったワインに、チーズも用意した。  奥の部屋のベッドも新しいシーツに変えて、枕カバーも洗いたて。  どっちの部屋も、一日かけて綺麗に掃除した。  初めてあたしの部屋に来る、超お金持ちの彼氏を歓迎するにあたって、善処したと思う。  ただ……。  あたしは玄関に目を向け、唇を歪めた。  猫の額ほどの玄関には相応しくない、観葉植物の鉢がとんでもない存在感で鎮座している。しかも、茎から垂れ下がった大きな葉っぱがみっともなく枯れている。 「邪魔くさい……」  枯れる前から、出入りするたびに体に当たって邪魔で邪魔でしょうがなかった。
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