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乾いた喉を、紅茶で潤して、僕は答えた。
「そうだね。分かるよ、少し」
「だから私、こんな自分を変えたいの。いろいろ努力もしたんだよ。でも、上手くいかなかった。やっぱり、先天的な性格のせいみたい。自分じゃこれ以上どうしようもない。でもこの性格を、どこかで根本的に変えないと、出来損ないのまま不幸で孤独な人生を送ることになるんだ、私」
「……日高さんの性格は、そのままで充分いいと思うよ」
そんな言葉を、なんとか絞り出した。
日高さんは返事をしない。
僕は、空になった紙コップから顔を上げて、日高さんのほうを見た。
日高さんの目から、涙がこぼれ落ちるところだった。
「日高さん。ごめん、僕なにか悪いことを」
「違うの。たぶん君はそう言ってくれると思ってたから。私気がついてるよ、クラスで孤立しかけた時や、なにかで困ってる時、最近さりげなく助けてくれてるよね」
……気づかれていたのか。
ただ、陰ながら助けになれればいいと思っていたのに。
僕の立ち回りは自分で思うより、露骨だったのかもしれない。
「私、君が好き」
日高さんは、僕の目を真っ直ぐに見つめて言った。
「日高さん……!」
聞き間違いかと思った。
そうではないと確信したら、嬉しさでどうにかなるんじゃないかというくらい、頭が熱くなって、朦朧としてきた。
世界がぐらりと揺れた。
座っていられなくなって、僕の上半身は、日高さんの腿の上に倒れた。
日高さんの涙の雫が、ぽとぽとと僕の頬に落ちる。
なんだ、これは。眠い……眠い?
どうして、いきなり。
「日高さん……? まさか、今の、紅茶に、なにか」
「君が好き。君は、この世で一人だけの、私の大切な人なの。だから、捧げる価値がある。自分ではどうしてもできなかった、私の性格を変えて、恐ろしい未来に恐怖しなくて済む、そのためなら、私、」
恐ろしすぎて、こうするしかなかったの。新しい自分になるっていう願いを叶えるために。
そんな日高さんの声を最後に、意識が、底なし沼に落ちるように沈んでいく。
ふと、例の噂が脳裏にひらめいた。
大切な人の指を、十本集めると願いが叶うという。
十人からなら一本ずつ。五人だったら二本ずついる。
では、大切な人が一人しかいなかったら。
そこで、思考がぷつりと途切れた。
次に僕が感じたのは、突然の、両手の指に走る、絶望的な十個の激痛だった。
終
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