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203センチの身長のあなたの背中は、148センチの身長の私からしたら断崖絶壁の山のよう。
ーーーーー
「あこの目に映る景色はどんなんやろ?」
私の横で地面に両膝をついて、目の高さを私と同じ位にして、同じ景色を見てくれる。
「なんか色々ごちゃごちゃして見えるんやなぁ」
と苦笑いをする。
「あなたにはごちゃごちゃして見えるかも知れへんけど、私にはそれが当たり前なんやで?」
と苦笑いをしてあなたを見る。
「あなたの目に映る景色はどんなん?」
「ん?見てみる?」
地面についていた両膝を片膝にしておぶる体勢をしてくれたけど私は「ううん」と頭を振る。
「あなたの背中をクライミングして同じ高さで同じ景色を見てみたいねん」
「僕の背中をクライミングして?…なんかオモロイこと言うなぁ…うん。そしたら、わかった」
片膝立ちからゆっくり立ち上がって「いつでもどうぞ?」とニヤリ顔で私を見て、アイコンタクト送ってくれる。
私はそれに答えて、あなたの背後から腰に腕を回し抱きついて、右頬をあなたの背中につけて、暫くくっつき虫になる。
くっつき虫になって、あなたでいっぱいになった私は、抱きついていた手を一旦離して、あなたから少し距離を取る。そして助走をつけて背中めがけてジャンプして、あなたの脇の下の下らへんを両手で抱き込み、太腿らへんを両足で挟み込む…これであなたの背中をクライミングする準備が整った。
少しずつ少しずつ両手両足を動かして落ちない様によじ登っていく。あなたの脇の下の下らへんを抱き込んでいた両手はあなたの両肩を掴み、太腿らへんを挟んだ両足は腰を挟む。
更に少しずつ少しずつ両手両足を動かしてよじ登る。私の両腕であなたの首を絞めない程に抱きしめ、両足は脇の下を挟む。するとこしょばかったのか「フハッ!」と笑った。
「お疲れ…なぁ…その足しんどいやろ?この体勢やったらおんぶの方が楽ちゃう?」
そう言うとあなたは私の両太腿を軽くポンポンッと叩いた。その合図で脇の下を挟んでいる両足を解いて、だら~んとする。あなたはすぐに私の両ふくらはぎをそれぞれ腕で抱え込んで脇に持っていく。
「ほら、おんぶになった!どうや?やっぱりこっちの方が楽やろ?」
「うん!むっちゃ楽!ありがとう」
「…なあ?どうや?」
「ん?」
「僕がいつも見てる景色…あこの目にはどんな風に見える?」
あなたの右肩にあごを置いて、同じ目の高さで景色を見てみる。そして、その景色に息をのむ。
「視界が開けてて…全然ごちゃごちゃしてへんし、気持ちがいい」
そう言うと、まっすぐ向いていたあなたが急に右を向く気配がして、(あっ)と思ったと同時位に左目尻に軽くチュッとしたあなた。
「なっ…なにしれっとしてんの💦💦あんたアホちゃうかっ(急になにするんやこの人は)」
「“なに”って、なに?」
あなたはニヤニヤ顔で聞いてくる。
「ち、チュッて…あ、あんた、アホちゃうか?」
「ハハッ!また『あんた』…フフッ!やっとかしこまった『あなた』から、くだけた『あんた』って言い方してくれた!」
「あっ!かしこまってるつもりはなかってんけど…照れ臭かって…一番最初に呼んだ呼び方が『あなた』やったから…なんかクセになって…」
「クセに…逆に『あなた』の方が恥ずかしいと思うけどなぁ…。なぁ、あこ、これをきっかけに名前で呼んでくれへん?」
「名前で?」
「うん。勿論僕の名前知ってるやんな?」
「うん…知ってる…『まさひこ』さん…」
だんだんフェードアウトしていく私の声。
「うん、あってる、あってるー。そしたら、呼んでみよか?」
そう言って、優しい顔で私が名前呼びするのを待ってくれる。そんな顔を見てしまったら(もっとホレてまうやろ〜)と自分に突っ込んで、速まってしまった胸を押さえて言う。
「まさひこ…さんっ💓(あっ、ハートつけてしもた)」
嬉しそうな顔をするあな…まさひこさん。
「うん…うん…なんか嬉しいなぁ…ふふっ」
私は嬉しくなって、もう1度言ってみる。
「まさひこさん」
「あーこっ」
もう1度言ってみる。
「まさひこさん💓」
「あーこっ」
もう1度言ってみる。
「まさひこさん」
「………」
(ん?あれっ?返事がない)と思ってると、彼は軽く私を背負い直して、まっすぐ向いたまま話し出す。
「なぁ…あーこ…これから先、僕とあこ、身長ぜんぜん違うけど、同じ目の高さで同じ歩幅で…もしかしたら険しい山になるかもしれへんけど、一緒に登ってくれへんか?」
話を聞いたあと、一瞬なんのことを言ってるのか分からへんかって、彼の言ったことを思い返してみて…それからガッテン!!私は嬉しくって、両腕であなたの首を絞める程に抱きしめて「一緒に登りたい」と一言こぼす…すると彼が私の腕をばしばし叩く。少し間があって、もう1度私の腕を…きつめにばしん!ばしん!叩く。私はあまりの痛さに一瞬腕の力を緩める。すると彼が『はぁっ!』と強く息を吐きだし、直ぐに『すぅーーー』と大きく息を吸う。そして、怒鳴り声。
「あほっ!嬉しいからって首絞めんなーーーっ!一緒に山登る前に、1人で三途の川わたるところやったわーーーっ!あほっ!」
「ご、ごめん…」
彼に怒鳴られ、しゅんとして、小声で謝り、ぐずっと鼻を鳴らす。すると彼が慌てる。
「ごめん!きつ怒鳴ってーー!でも、ほんまやばかってん💦三途の川見えてん💦💦だから、許して!」
「先に三途の川渡られたら嫌やし、いいよ!私も悪かってんし」
そう言って、今度は力を加減して、彼の首を抱き締めた。
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