なんにも変わらなかった

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 恐らく、推測はハズレだ。きららもるるみも、祖母の知人ではなかった。だとしても、このキャラクターがなんなのか思い出せない。  ただ、記憶の奥底で、ムズムズと何かが疼く感覚はあった。確かに遠い昔、私たちの間に二人はいたのだ。  ヒントを求め、目を動かす。素早く留まったのはノートだった。  紙が挟まっていた辺りを適当に開く。書き込み方で、ノートの正体が日記だと気付いた。  “5月14日火曜日(晴れ) 今日、弘子ちゃんと公園に行きました。集めたどんぐりを全部くれて可愛かった。元気な弘子ちゃんを見てると、私まで元気になります”  “5月15日水曜日(雨) 今日は公園に行けなくて残念そうでした。でも大好きなブドウを食べたらご機嫌になっていました。緑のブドウがお気に入りみたいでいっぱい食べてたなぁ”  きららの文字を求めつつ、文章に目を通していく。数ページ単位で飛ばしたり、戻ったり、行き来しながら何行もの記憶を吸収した。そのどれもが私の話だった。 「おばあちゃん、私のこと好きすぎでしょ…………あっ」  適当に戻ったページにて、古紙の切れ端が落ちた。朽ちた紙片が二、三個舞い落ちる。  ここに回答があると確信し、きららの文字を必死に探した。こんなに必死に文字を追ったのは、受験勉強以来だろうか。  端から順に視線を滑らせたが、右下まで到達しても“きらら”は発見できなかった。ただ、気になる一文で締められてはいた。  “4月20日土曜日(晴れ) 今日、弘子ちゃんが自分の名前が嫌いだって教えてくれました。お友達のキキちゃんに可愛くないって言われたんだって。とっても可愛い名前だよって言ったけどイヤみたい”  そうそう、保育園のお友達、キキちゃんって子だった。その子に、名前のことを言われて落ち込んだっけ。  あ、そうだ。それで私は――。
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