0人が本棚に入れています
本棚に追加
「…………ただいま」
赤い目と格闘していたら、すっかり遅くなってしまった。今日もバタバタと、祖母の音が聞こえてくる。
「きららちゃん、今日もかわいいねぇ!」
それから、変わらないルーティンを突きつけてくる。遅かったねとか心配したとか、学校大変だったねとか、それなりの言葉が欲しかった。
なぜか今日は、悲しみを通り越して苛立ってしまう。つい先ほど、己を納得させたばかりなのに。
「弘子ー! 遅かったじゃん、心配したよ!」
遅れて登場した母が、望んでいた言葉を発した。なのに気持ちは浄化されず、夜と同じ色になってしまう。
限界だった。続くことを考えたら、耐え難くなった。
「…………おばあちゃんさ」
「きららちゃん、るるみって……」
「変だよ! あまりにも忘れすぎだよ! 私はきららじゃなくて弘子だよ!」
だから、叫んでしまった。
祖母の顔が驚き、しゅんと沈む。理解できていないのか、返事はなかった。
あ、もっと穏便に伝えればよかった――後悔したのも束の間、祖母に笑顔が戻る。だが、あからさまに引き攣っていた。
「…………ぶどう食べる?」
決着をつけたはずの涙が、再戦を求めてくる。力を増した相手に、勝てる気がせず部屋へ急いだ。
最初のコメントを投稿しよう!