なんにも変わらなかった

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 スマートフォンでゲームをしていたら、時間なんてすっかり忘れていた。  経過を知らせてきたのは、アラームでも腹の虫でもなく電話だ。切り替わった画面に“お母さん”の文字がある。 「もしもし? 何?」  何の気なく呟きながら、急に空腹を自覚した。もう昼か――と推測し、置き時計を見る。予想通り針は十二の手前で寄り添っていた。  いつもなら、そろそろ帰宅する時間である。その時間の電話だ。恐らく『少し長引く』とか、『冷蔵庫にマヨネーズあったっけ』とかいう用件だろう。  ああ、これはお昼ご飯が遅くなるなぁ。 「おばあちゃんがいなくなった」 「えっ」  予想に反した連絡に固まる。腹の虫も、驚いたのか奥へ引っ込んだ。誘拐、徘徊、事件、事故、死――不吉な単語が頭の中で混ざり合う。 「今、警察の人にも探してもらってるけど見つからない。ほら、さっき放送あったでしょ」 「……聞いてなかった。あ、わ、私どうしたら」  初めての事態に困惑しかできない。度々、兆候はあったが、実際に消えてしまうなんて思っていなかった。 「私は引き続き周辺探すから、弘子は家にいて。そんでおばあちゃん帰ってきたら連絡して。あ、弘子さ、行きそうなところ心当たりない?」 「い、行きそうなとこ?」  混乱で白くなりかけた頭に、花が現れる。昨日寄ったばかりだからか、あの散歩道だけが候補として上がった。けれど、それ以外の場所は何一つ浮かばない。 「ないならいいや、とにかく切るから!」 「あ、えっとね!」  ひとまず、唯一の候補だけは伝えた。多くの時間を過ごしてきたはずなのに、他に何も思い出せないことが苦しかった。  ふと、今朝方見た隙間を思い出す。そういえば、普段使われない祖母の部屋が開いていた。  そこになら、手掛かりがあるかもしれない。  スマートフォンを握りしめ、一階へ駆け降りた。
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