リア充図書委員と自宅警備員

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 さっさと掃除を終わらせて図書室へ向かうと、階段の上がり口でひっそりとそちらをうかがっている飯束さんがすでにいた。 「なんでコソコソしてんの」 「現行犯で捕まえるには、まずは盗んでもらわないと」  できれば罪を犯す前にとめてあげたほうがいいが、いえる状況にない。 「ねぇ、飯束さんは犯人の見当がついているの?」 「シィー! 来た」  飯束さんは慌てて首を引っ込めると「太田くんってあの人?」と聞いてきた。  飯束さんは太田くんの顔を知らないんだろうか。  同じ図書委員なのに?  まぁいいかと、そうっとのぞくと、男子がひとり、こちらに向かってやってくるところだった。  首を引っ込めて飯束さんに報告する。 「きのううちにやってきた人だよ。でも、ばっちり目が合っちゃったんだけど」 「もう! だったら出て行こう!」  飯束さんに背中を勢いよく押され、哲太が廊下に飛び出すと、太田くんはその場に立ち尽くしていた。  その距離、約3メートル。  そこまでびっくりすることないのに、太田くんは微動だにしない。  飯束さんも続いて飛び出し、哲太の陰で右手を突き出して太田くんを指さした。 「勝手に持ち出すのは許されないわ!」  威勢良く声を張り上げる飯束さんにおののいて横を見やる。鼻から大きく息を吸い込んでいて、相当な怒りを感じる。  飯束さんは「見てきて」とあごで太田くんを示した。 「えっと……なにを?」 「ぞうきん」  見れば太田くんはぞうきんを小脇に抱えていた。  たしかに、ぞうきんをそんな持ち方するなんて怪しいが。  近づいてぞうきんを覗き込むと一冊の本が挟まっていた。 「これって……」  うしろからついてきていた飯束さんもそれを確認している。 「掃除当番で鍵を預かるのをいいことに、図書を盗み出したでしょ」  太田くんはもう片方の手には「図書室」と書いてあるキーホルダーのついた鍵を持っていた。  そうなのか。  太田くんは図書室掃除の担当で、おそらくは班長。最後に鍵をかけて職員室へ返しに行くところだったのだ。  太田くんには本を盗み出すチャンスがあった。図書室から持ち出せればあとは近くのトイレにでも隠しておいて、放課後、誰もいないときに回収すればいい。  ところが全部盗み出したはいいが、一冊足らなかった。  返ってくるのを待っていたがいつまで経っても返ってこないので、しびれを切らせて誰が借りているんだと図書の貸し出しカードを見たのだろう。掃除当番は一週間で違う場所へと移動してしまうから。  貸し出しカードは厳重に保管されているわけではなく、貸し出しカウンターに入れば誰でも見られる。それを見て哲太のクラスと名前を知り、誰かに哲太の住所を聞いてやってきたのだろう。 「新なぞれきは全巻返してくれるよね?」  飯束さんが強めに聞くと太田くんはあっさりとうなずいた。 「先生にいうつもり?」  太田くんは不安げに哲太たちの顔を見比べた。  大胆なことをしでかしたのに、意外と小心者だ。魔が差さなきゃこんなことやるタイプじゃない……って、そう思いたい。  興奮していた飯束さんはすっかり落ち着きを取り戻すといった。 「全部返すならなにもいわないよ。元通りになるなら、それでいい。どこかにいっちゃうより、この本はここにあったほうが価値があると思うから」  物の価値は人それぞれだ。  三登田スカイ自身はこの本をこの世から消し去りたいと思っている。  構図をまねて描いたイラスト。  売れない漫画家がやらざるを得なかった仕事。  それを恥じている現在。  ――そして、ここにもまた自分の行為を恥じている者がひとり。  本は、読まなくても、人生の教えを説くらしい。
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