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皐が突然、家からいなくなった。
外へ出かけるための服や食料、旅行鞄、携帯電話に財布。それら一式がなくなっていたことと、本人が“ちょっと出かけてきます”と書き置きを残していたこと。何より彼が二十一歳の男である点から、当初家族さえも事件性を疑っていなかったのである。
ただ一切連絡が取れず、一週間過ぎてしまったことで、やむなく捜索願を出すことになったというだけで。
はっきり言って、まだ事件だと決まったわけではない。あっても精々家出だろうと、警察も含めて誰もが思っている段階。
そう、偶然――あるものを見つけてしまわなければ。
「昨日さ。皐がいなくなるちょっと前に頼まれてたことを思い出したんだよ」
ここは、柾が家族と一緒に住んでいる家のリビングである。高校時代からの親友である悠月が遊びに来るのは珍しいことではなかった。
「皐、小説投稿SNSのスターライツってところに、いろいろ作品投稿してたんだよな。知ってる?スターライツ」
「作家になろう、みたいなところだよな?」
「あってるあってる。大手小説投稿SNSって言われてるところでも、三番手くらいに有名なところじゃないかな。で、そのスターライツにあいつのアカウントがあって。俺、あいつのアカウントのパスワードとかもメアドとかも聞いてんのね」
何故知っているかといえば、本人から聞いたからである。
失踪直前に、頼まれ事をしたのだ。
「あいつに言われたんだ。もし自分が忘れてたら、●日にスターライツに新作投稿しといて、って。そのタイトルが“黒き沼”っていう、残酷系のホラー小説だったわけ。さっきお前に見せた小説ね。二十話くらいまで下書き投稿されてた」
「忘れてたらって……予約投稿機能とかねえの?オレ、作家になろう、なら登録してるから知ってるけど」
「スターライツにも予約投稿機能はあったけど、多分あいつ、毎回手動投稿したいタイプだったんじゃねえかなあ。……まあそれはいいんだよ。その黒き沼って小説を●日……つまり昨日投稿しておいてって言われたの土壇場で思い出してさ。あいつのパソコン立ち上げて、アカウント確認したわけ」
自分の代わりに投稿しておいて!と頼むのに中身を見るなとは言わないだろう。
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