<2・殺戮。>

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<2・殺戮。>

 G県、N群に位置する黒沼村。  そこでかつて、凄惨な虐殺事件が起きたという。  始まりは、ある一人の女性が殺されたことだった。彼女は村一番の美人と名高い女性で、村の外から来た男性と恋仲だったという。将来、男性とは結婚を約束していたらしい。  よそ者に厳しい閉鎖的な村だったが、男性とその家族はとても親切で情に厚く、村にもすぐ溶け込んだという。元々彼の親戚が村で農業を営んでおり、それを手伝う目的もあって移住してきた、というのも大きい。この人ならばと、誰もが納得していた。彼女を任せるに足る、十分な人物だと。  しかし、女性はある夜の晩、突然押し入って来た何者かによって殺害されてしまった。それも、両乳房を切り取られるという残酷なやり方で。  彼女の乳房と、使われた凶器は見つからなかった。犯人は異常者、あるいは彼女によこしまな思いを抱いていた人物なのではないかという噂が流れた。容疑者として疑わしい人物は何人かいたものの、結局犯人を見つけることができないまま第二の殺人が起きてしまうのである。  二人目は、若い主婦だった。  彼女は夫との間に新しい命を身ごもっていた。臨月が近く、胸も腹も大きく膨らんでいたという。  彼女の死に方はもっと残酷だった。乳房を切り取られたのみならず、腹を裂かれて赤ん坊までもが奪われていたからである。赤ん坊の死体はついぞ見つからず、切り取られた乳房もやはり見つけることができなかったそうだ。 「そうして被害者は、三人目、四人目、と続いていく。狙われるのは十代後半から三十代までの若く美しい女性ばかり」  はあ、と柾はため息をついた。 「でもって、事件は迷宮入りとなって、そのまんま。ていうか、三十年前だからな。まだ公訴時効があった頃だ。当時の法律が適用されるなら……殺人罪の時効って十五年とかそれくらいだったんじゃないかな」 「あー……今じゃ死刑になるような犯罪は時効ないもんな」 「そうそう。だからもう、捜査とかされてないんじゃないかと思う。というか、そもそもこの事件は捜査を始めるのがものすごーく遅かったらしい。閉鎖的な村だからなあ……」  三十年前。  柾も皐も、もちろん目の前の悠月も生まれる前だ。まだ昭和の匂いが色濃く残っていた時代かもしれない。ましてや、田舎の農村ならば、明治や大正くらいの古い慣習がいつまでも残っていてもおかしくはなかったはずだ。  柾が調べた資料によると、事件が表沙汰になったのはなんと、女性が十二人も死んでしまった後になってからのことという。この時になってようやく、村長が警察へ通報したというのだ。
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