<2・殺戮。>

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 弟の皐は今年で二十一歳。三十年前の事件が起きた時には生まれてさえいないので、犯人であることは絶対にありえない。だが、だとすれば柾はなぜ、こんなリアリティのある小説を書けたのか?という疑問が出てくる。  ただの創作にしては、何かがおかしい。  そして、今まで柾は異世界ファンタジー系のライトノベルを中心に書いていたはず。何故突然、現実の事件をモチーフにしたグログロホラーなんてものを書こうと思ったのか。  もしもこれがただの創作ではなく、本当に実際の事件をそのまま描いたものなのだとしたら。  もしそうならば――弟がどんな疑惑をかけられるか、わかったものではない。たとえ、本人が直接殺人犯ではありえないとしても、だ。 「俺にはこれが……黒沼村の事件と無関係の作品とはどうしても思えない。まるで、犯人が知っている情報がそのまま記載されてるような気持ち悪さがあるんだ。誰かが弟に頼んでこれを書かせたんじゃないか、そんな気がしてならないんだよ」  だからさ、と柾は悠月に頭を下げる。 「頼む、悠月!……お前も夏休み、結構時間あるだろ?俺と一緒に、この小説について調査してくれねえか?そうすれば、弟がどこに消えたのかも、探す手掛かりになるかもしれないし!」 「あー、まあ……確かにオレら、暇っちゃ暇だけど」  八月から九月いっぱいまで、大学生は夏休みが続く。もし自分達がまだ仕事が決まっていなければそれなりに忙しかっただろうが、幸いにして柾も悠月もとある会社から内定をもらっていた。多少課題は出ているがそれだけだ。卒業論文も、まあもう少し後になってから手をつければいいや、くらいである。  何かを調べるにはちょうどいいタイミング、なのかもしれない。  もし弟の皐がそれを見越してこの時期に失踪したのだとすれば、少々作為は感じるが。 「……しょうがねえな。柾の頼みじゃ、断れねえ」  高校の時からの親友は、困ったように笑ってそう言ってくれた。相変らず、顔だけじゃなくて性格のイケメンないいやつである。高校時代、彼は強豪サッカー部に所属していた。イケメンに加えて長身、サッカー部のエースということもあり女子人気が爆発していたのをよく覚えている。
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