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自分たちの推理通りなら、日暮は村のシステムに不満を持っているはずである。クロガミ様とやらも信じていない可能性は十分にある。が、それでも下手なことは言わない方が賢明だ。氏田松江を愛していたからといって、村の神様まで愛していないとは言い切れないのだから。
「話を聞いたかんじ。三十年前の事件は……氏田松久が犯人だった、と思っていいと思っていますよ」
柾の言葉を引き継ぐように、悠月が言う。
「ていうか、警察もそういう結論出してるっぽいし?氏田の一家心中の時、家族もそう把握してるみたいな遺書見つかってるみたいですしね。……氏田松久が逮捕されなかったのは、彼が警察介入直後に行方不明になっちまったから。村のどこかにいるはずなのに、村中探しても見つからなかったから、ですよね?」
「まあ、そう聞いていますがね」
「氏田松久がこのような暴挙に出た理由は……オレらがこの村に来るきっかけになった小説、“黒き沼”の内容とも照らし合わせてみればおおよそ想像がつきます。……柾」
「おう」
悠月に目で促され、柾はリュックの中からファイルを取り出した。
そこに収められた、皐が書いた“黒き沼”の内容を。
「村長さんツテに聞いてるかもしれませんが。俺の弟・皐はこういう小説をWEBに投稿して、そのまま行方をくらましました。俺が最終的に公開設定にしなかったので、まだ一般公開はされてませんけど」
日暮がファイルを手に取ったのを確認して、話を続ける柾。
「この黒き沼というホラー小説の主人公は、とある山奥の村に恨みを持つ村人の“俺”です。“俺”の名前も村の名前も出ませんでしたが……この主人公が起こす連続殺人事件の内容と被害者の名前は、黒沼村で三十年前に起きた事件とぴったり一致していました。俺は、行方不明になった皐を探す手掛かりがこの事件と黒沼村にあると思って、ここまでやってきたというわけです」
「……ふむ、なるほど。確かに……被害者の名前が一致してますな。被害者の名前は、一般公開されていなかったはずだというのに」
「そうでしょう?でも、皐は三十年前の事件の時には生まれてさえいないから、殺人事件に関わっているはずもない。誰かが皐に接触して、この小説を書かせたんです。俺はそれが、三十年前の黒沼村連続殺人事件の犯人だと踏んで、弟を呼び出したであろう犯人の行方を知りたくて事件の謎を追いかけました」
「ふむ……」
自分達が今日一日で知ったこと。そしてそこから導き出された答え。
その奥にあるのは、あまりにも信じがたい、信じたくない真実だ。
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