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日暮もまたこの村の仕組みに不満を持っていた。それを表に出せずに鬱屈した感情をため込んでいた。そしてそれは、村の若い男達の多くがそうであったのだ、と。
「……あんたが協力者である可能性は、かなり高いと見てますよ、オレらは」
悠月が低い声で、口を挟んだ。
「三十年前。連続殺人をした氏田松久は、警察が介入すると忽然と村から姿をくらました。警察が村中探しても見つからなかったってことは、村の外に逃げおおせた可能性が高い。唯一見張りをしていたあんたが彼を逃がしたなら、こんなもん密室トリックにもなりゃしないんですよ。同じく、令和の時代になってからそいつを再び招き入れて、神社の前で焼身自殺をさせた、そうでしょ?」
「確かに、村の中から姿を消してまた現れたというのなら、そういう可能性もないわけではないですねえ。でも、村の中にずーっと隠れてた可能性を、完璧に否定できるもんじゃあないでしょう?」
「そうだな。でもあんたが一番可能性が高いってのは間違いないんだぜ」
そうだ、と柾は頷く。
ただ、門番をやっていて自由に松久を出入りさせることができたというだけではないのだ。彼の場合は松枝と関係を持っていて、惚れていた男の一人だったというのもある。
同時に。
「貴方は他の男性たちより、村の仕組みに対して不満を持っていた可能性が高い。俺はそう思っています」
柾は部屋の天井を見上げた。このボロボロな小屋のトタン屋根には、あちこち穴もあいているように見える。雨が降ればきっと雨漏りもすることだろう。
まだまだ残暑厳しい九月なのに、エアコンがかかっている様子もない。そもそもエアコンらしい機械もない。
そして、老人が一人でこんな村の外に寝泊まりしているという、この状況。最初に見た時から“ブラック労働がすぎる”と思っていたのだが。
「この村は古くからの言い伝えで、身分や階級が厳格に決められている。それについては、秋田春子さんのご遺族……義理の姉の弓子さんと義理の弟の風助さんからもいろいろ聞いています。貴方たち、日暮家のことも」
『考えもしませんでしたわ。……日暮さん……というか日暮さんのご一家は、あそこの門を見張るのが代々のお仕事で、神主様からも信頼されていたのに』
『日暮正義の家族は?』
『日暮さんのご両親とお兄様はもう他界されています。日暮さん本人は結婚されていて息子さんと娘さん二人がおりましたけど、奥さんは亡くなってますしお子さん三人とも村から出ていってしまっているので村に残っているのは日暮さん一人だけね……』
『見張りの交代は?』
『本人が具合が悪い時と、週に一度のお休みの日だけ別の人に頼んで代わってもらってたみたいだけど……』
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