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そしてこの手のタイプは、案外男子にも嫌われないのだ。面倒見のよい兄貴分、というキャラは本当に得である。実際、高校時代勉強がわからなくて困った時、イベントの企画に詰まった時、いつも助けてくれたのが悠月だった。
「まあ、できることはやってやるよ。柾みたいな方向音痴じゃ、実際に村へ足を運んで調査するーとかもできないだろうしな」
「……う」
「その顔。やっぱり行こうとしてたんだろ、黒沼村。お前ひとりで行けるか、ボーケ」
「はい、ムリデス」
「あっさり言うな!」
はははははは、と笑い声が上がる。昔からの気の置けない関係というのは、やっぱりいいものだと思う。
黒沼村。
一度足を運んでおこう、とは思っていたのだ。一応ネットで調べて、ある程度場所に目星はつけてある。電車はもちろん、バスさえわずかしか本数がないような場所なので、辿り着くのは簡単なことではないだろうが。
ただ。
「黒沼村には行ってみるつもりだけど……一つだけ引っかかってることがあるんだよね」
グーグルマップを起動させながら言う柾。
「皐はまず、この村には行ってないと思うんだ。小説内では小さな商店街とか、村の役場とか公民館とか、やけに丁寧に描写されてるんだけど。あいつ、長らくヒキコモリだったから……一人で新幹線も乗れるかどうか」
「つか、ヒキコモリだったならお前らに内緒でそんな遠くまで出かけるのが無理じゃないか?深夜にこっそりどっかに出かけて戻っても、それはそれでばれそうだけど」
「うん。俺が学校でオヤジとお袋も仕事で、家にいない時間があるのも事実だけどさ。俺の大学の講義は結構時間もばらついてるし……一番三人とも家にいない時間が長い水曜日でも、八時間?その間に行って帰ってこないといけないから結構きついと思う」
そして、彼の靴が汚れていたり――それ以前に靴箱から出されている形跡がほぼなかった。
少なくともここ数年で、彼がどこかに出かけたことはないように思われる。
黒沼村を直接取材した、というのかあまり考えられないことだろう。
「なら、この村に行くより前にもう一つやることがあるかもしれないぜ」
村の地図を表示させた柾に、悠月がはっきりと言った。
「ネットだよ。……弟くん、Twitterアカウント持ってたんじゃねえの?そこで、黒沼村について詳しい誰かと繋がってた可能性はないのか?」
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