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「じゃあ、日も暮れてきたし、俺は山を下りるよ。ああ、最後に言っとくけど、あんなロープは意味ないと思うぞ冬馬。猫殺しの犯人を捕まえたいのは分かるが。もうそいつは山になんて来ない」
言いながら車に乗り込み、エンジンをかける。
「あとで爺さんに手伝ってもらって、外しとけよ。山の美観を損ねるから」
最後はややきつめに忠告した。
細い砂利道をUターンさせている間も冬馬はじっと直基を見つめ、回し終わると小走りで、助手席側の窓に寄ってきた。さよならでも言いたいのかと思い、リアウインドウを下げた。小さい顔がちょこんと窓からのぞく。
冬馬はゆっくり口を開いた。
「うん。どうせ、もう見つけたから」
そう言ったように聞こえた。
「え、何を見つけたって?」
「犯人」
ほんの数秒、時間が止まったように二人は顔を見合わせた。
冬馬の黒々とした瞳の中に、さっき消し去ったはずの苛立ちと、うすら寒さがぶり返すのを感じた。
「どういうことだよ」
「鈴の音が鳴ったら、きっとそれが犯人だと思ってた」
「どういうことだって聞いてるだろ? 鍬泥棒とロープと、何の関係があるんだ」
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