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桑野直基は山道を下りながら、ミニバンのライトを一瞬消してみた。
すべてが漆黒に包まれ、慌てて点ける。
「地獄だな」
山の中腹に女を埋め、帰る途中だというのに、こんな遊びをする自分の図太さは、嫌いではなかった。
運の強さも自慢だ。何らかの災厄が降りかかっても、いつもうまく切り抜けてきた。
今回の災いの元凶は、三か月前飲み屋で出会い、その日から直基のアパートに住み着いた、沙羅という宿無し女だ。
どうにも手癖が悪く、直基の財布からしょっちゅう小銭をくすめていた。最初は大目に見たが、今朝は万札を三枚やられた。さすがにキレて問いただすと、泣きながら「自分は本当はまだ17歳だ」「警察に誘拐され暴力を振るわれたと駆け込んでもいいのか」と逆に脅してきた。
怒りで自制が聞かなくなったのは久しぶりだ。気が付くと目の前に、動かなくなった体が転がっていた。
幸い、一か月前にちょうど中古で購入したミニバンは、それを運ぶのにちょうどよかったし、この田舎には、埋めるのに適した山はいくらでもあった。
深夜、車を飛ばし、未舗装の坂道をひたすら上って適当な場所を探した。
途中、土を掘る道具がない事に気が付いたが、右手に現れた古い民家が窮地を救ってくれた。
灯りが見えなかったので、空き家だったのかもしれない。
道に面した納屋の壁に農具が数本立てかけてあり、ありがたく拝借した。
土はどこも掘りやすく、作業はすぐに終わった。錆びたスコップを斜面に投げ捨て、終了。
あとは日常に戻るだけだった。
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