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道の横に咲いていた彼岸花を一本摘み取ると、冬馬は納屋の裏に走った。
可愛がっていた猫、ポムの墓に供える。
ポムの名前と絵が丁寧に描かれた木のプレートは、二日前、冬馬が泣きながら作ったものだ。
背中を丸めて手を合わせる孫の様子を玄関口から見ていた祖父が、近寄って声をかけた。
「しばらくは寂しいな、冬馬。本当にひどいことをする奴がいるもんだ。夜中にお前が見たって言った車。ナンバーでも覚えてたなら、ふもとの駐在に言って、探させるのになあ」
冬馬は顔を上げて、祖父に微笑んで見せた。
「ありがとう。でも、もういいんだ」
「犯人捜しはやめるのか? 三日前は消えたスコップやら、車のタイヤの跡やら、一日中走り回って探しとったのに」
「うん」
「まあ、お前がいいなら、それでいいんだが……。じゃあ、あのロープも外しておこうか。ワシには何のためのものか分らんかったが」
「ポムをあんな目に遭わせた犯人は、また戻ってくる気がしたんだ。スコップを投げ捨てた辺りに。だからロープを外して進もうとしたら分かるように、鈴をつけた」
「なんで戻ってくると思ったんだ?」
「証拠を残したから」
「証拠?」
「なんでもない。忘れて。ロープは、ちゃんと外しておくから」
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