このセカイのきまりごと

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 良く晴れた九月の午後だというのに、山の中腹に近づくごとに、空気が陰鬱になって行く気がした。  無駄に案ずるなと自分に言い聞かせる。  今回も掘り返すためのスコップはなかったが、またあの納屋から調達すればよかったので、少しは気が楽だった。  カーブを超えれば、目的の民家はすぐそこだ。 「あ?」  思わず声が漏れた。  民家は確かに右手にあったが、その十メートルほど先で、道には白いロープが張られ、閉鎖されていた。三日前はそんなものなかった。  車を納屋の前に停めて確かめに行くと、両端は左右の杉の幹にしっかり括り付けられていた。まだ新しいロープには、いくつもの鈴がぶら下がっている。 「何だこれ。ふざけやがって」  誰の悪戯だ。怒りに任せて蹴り上げると、しゃりしゃりんと大きな音がした。  車のそばまで戻り、ロープを切れる刃物がないか探すことにした。  納屋の壁にはあの日のように、数本の農具が立てかけられている。ざっと見渡した直基は、息をのんで動きを止めた。  スコップがあった。  あの夜、農具の中にスコップはひとつしかなく、それは直基が持ち去り、木立の中に投げ捨てた。  嫌な想像が浮かんでくるのを脳内で振り払う。  スコップにはスペアがあった。ただそれだけだ。何の問題もない。これ以上余計なことは考えるな。  住人がいるのならば見られぬように農具を拝借し、さっさと作業を終えるまでだ。  自分に言い聞かせ、鋼の分厚い、ずっしりした(くわ)に手を伸ばした時だった。 「それ、何に使うの?」  背後から声がした。  直基の手に触れた鍬が鈍い音をたて、地面に倒れる。  振り向いた先にいたのは、水色のTシャツにひざ丈の短パン。小学三、四年生くらいに見える、華奢な少年だった。
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