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「ああそうだよ。なんか文句があんのか」
こんなガキに何をビビってるんだ。冗談じゃない。
頭の隅でそう思いつつも、その小ぶりな口から出てくる言葉を、一言たりとも聞き逃してはならない気がした。
「文句があるならさっさと言えよ」
直後、子供は目を見開いて直基をまっすぐ見上げてきた。
まるで何かの思念が顔面に飛んできたような恐怖を感じ、思わず後ずさる。
「さっさと言えって言ってんだろ!」
「三日前」
バクンと心臓が跳ねた。
子供は目を反らさずじっとこちらを見つめてくる。
「み、三日前がどうした」
「三日前の夜中、おじいちゃんの鍬やスコップを触った人がいるんだ」
言葉が出てこない。
僅かな間があった。
「僕ね、猫を飼ってたんだ」
「……猫?」
予期しなかったワードだ。
「うん。二年前、僕がここの、おじいちゃんとおばあちゃんの家に住み始めた日に、捨てられてるのを見つけて拾ったんだ。真っ黒い猫。足が悪くて、走るのが遅いんだけど」
「いったい何の話だよ」
「その猫が、三日前の夜中、死んじゃったんだ。殺されたんだ」
「殺された? 猫が?」
「うん」
子供は言いながら、足元に倒れた鍬を持ち上げ、納屋の壁に立てかけた。
「朝起きてみたら、おじさんが立ってるあたりに猫が死んでて、その横に、この鍬が転がってた。おじいちゃんは、誰かが夜中、この唐鍬を猫に投げつけたんだろうって言った」
直基はゆっくりと立ち位置を移動しながら、同時に三日前を反芻した。
深夜、土を掘る農具をここで物色している最中、すぐ足元で何かが動く気配を感じた。見下ろすと、小さく光る目があった。
イタチか何かだろう。苛立ち紛れに蹴飛ばし、手に持っていた農具を投げつけた。そのあとすぐに手ごろなスコップを見つけ、振り返りもせずに車に戻った。
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