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――あの時イタチだと思ったのが、こいつの猫だったのか。
こいつは、そのことが腹立たしくて、ロープを張ったり鈴をつけたりして、犯人捜しのまねごとをしていたのか。なんとも幼稚な。
思わず声を出して笑いそうになるのを、直基はぐっとこらえる。
「そうか、猫は可哀そうだったな。それで、ここを通る車を警戒してたのか。気持ちはわかるよ」
子供はわずかにうなづいた。
同情する表情をつくろうとするほど、笑いがこみあげてくる。
こんな子供相手に肝を冷やしていたさっきまでの自分も、無力で無能な目の前の子供も、ひどく滑稽だった。
問題は解決していないが、とりあえず目の前の懸念は払拭された。三日前のことはまだ誰にもバレていない。
キーホルダーは、また深夜にでも、改めて回収しに来ればいい。慌てるのは禁物だ。
「この家に、爺ちゃん婆ちゃんと、三人で住んでるのか?」
「うん、お母さんが入院中だから、ここに預かってもらってる」
「そりゃあ寂しいな。こんな山の中の古い家、住むのも大変だろ」
「おじいちゃんたち、優しいから寂しくないよ。家は古いから、誰も住んでないかと思って、ハイキングの人が勝手に入ってくることもあるよ」
「ああ、それ、分かる」
俺も最初は廃屋だと思った、と言いそうになり、あわてて口をつぐむ。
子供は少し気を許したのか、自分の名前が冬馬ということや、今五年生で、ふもとの小学校までは祖父が軽トラで送って行ってくれることなど、ぽつぽつと話してくれた。
子供はちょろい。
胸の中でほくそえみながら、直基はポケットから出した煙草に火をつけた。
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