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「鍬泥棒? 僕、鍬泥棒なんて探してない」
「知ってるよ。猫殺しの犯人だろ? 細かいな」
「盗まれたのは、鍬じゃなくてスコップだし」
「へえ……。スコップが、盗まれたのか」
頭の中で目まぐるしくこの会話の意味を探る。
だが見えてこない。
「うん。見つけたけど」
「……なにをだ」
「盗まれたスコップ」
見開かれた黒い眼球を見ていられず、思わず視線を逸らす。
「へー、良かったじゃん」
危険だと思った。
――この会話は続けるべきではない。
「この、道をのぼった先に、捨ててあった。すぐ見つかった」
嘘だ、と叫びそうになった。
スコップは、埋めた場所から見えない斜面に投げ捨てた。
――いったい何なんだこいつ。なんで俺にそんな話をする。
苛立ちが次第に膨張し、体が熱くなっていく。
「なんか、話が見えてこないな。スコップ泥棒や猫殺しが、なんであのロープで捕まえられると思ったんだ? おまえ、脳みそ小さすぎだろ」
――もうたくさんだ。こんなガキと話していたら、こっちまで頭がいかれてくる。
「まあ、せいぜい頑張りなよ、少年」
車を出そうとした瞬間だった。
「もう見つけたって言ったろ? 直基さん」
胸に杭を突き刺されたような痛みが走った。一瞬にして思考が止まり、目を剥いて冬馬を振り返る。
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