家族のような

1/1
前へ
/1ページ
次へ
怒り 喜び 哀しみ 楽しみ ボクはお母さんの手元の コンパクト型のデータボックスに 集めた喜怒哀楽の根源となるデータを送信した。 それを受けたお母さんは 手元のコンパクトのデータを確認するとパチンと蓋を閉めた。 このコンパクトがあれば お母さんの手で生み出されたアンドロイドに感情が芽生える。 「さて、これから出荷先のご家族と  たくさんの思い出データを集めてらっしゃいね」 生まれたてのアンドロイドの冷たい頬を愛おしそうに撫でると お母さんはにっこりと微笑んだ。 ふわふわの巻き毛がスイングする。 このラボでボクとお母さんは この街のアンドロイドを生産している。 と、その時 地下シェルターからメールが届いた。 「お母さん、お父さんからだよ」 ボクはそう言うと ラボの大型モニターにお父さんの姿を映し出した。 白髪で銀縁メガネが似合う。 相変わらずどこか品がいい。 何気ないお父さんとお母さんの日常会話がラボに響く。 「君は年を取らないな」 「当たり前じゃないの  私はあなたが作ったんだもの」 違和感のある優しさが ラボを不自然な空間にする。 ドブを這う何かのような不衛生な雲が 重く垂れ下がるこの街で 呼吸ができる人種はごくわずかとなっていた。 お父さんと呼ぶ白髪の紳士と お母さんと呼ぶ優しい巻き毛のアンドロイド ボクは子供と呼ばれ愛されていた。 「あなた、見て」 お母さんはお父さんにボクのデータを見せる。 「なんて優しいいい子なんでしょう」 お母さんは満足そうに微笑むと ボクのコンパクトをパチンと閉じてデスクに置いた・・・  
/1ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加