優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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 * * *  一晩眠って、また朝が来た。  昨日は久しぶりに体を動かしたから、ベッドに入った途端に秒で眠りにつけた。  一応かけておいたアラームの音で起きる。最悪寝過ごしてもいいかと思っていたけど、頭の片隅に早織の存在があった。  やっぱり、学校には行かないとな……。  早織と、先生とも約束しちゃったし。  それにしても、こんなにスッキリと起きられた朝は、未だかつてあっただろうか……。  頭が妙に冴えている。  外は快晴で、朝から気分が良かった。   「あ、優雨君おはよー!」  教室に入るや否や、すぐに早織が笑顔で出迎えてくれる。  早織はいつも元気だな……大病を患っているというのに、こんなに気丈に振舞えるなんて、僕にはできない。 「おい優雨! こんなにいい天気なんだから、今日は絶対に泣くんじゃないぞ!」  またこの子か。ガタイの大きい男の子。名前は覚える気にもならない。  それに絶対に泣くななんて脅し、今の僕には通用しない。  だって、あの頃と違って、僕は泣かない体になったから。  僕はこの期間で、我慢することを覚えたんだ。  涙なんか流さない。今はその気持ちが根強くある。泣かない自信もある。 「わかってるよ。もう泣かないから安心して」  ぶつくさと文句を言いながら、男の子は自分の席に戻っていく。  朝から嫌な気分だな、本当に。もう今日は帰りたいや。  溜息をつきながら自分の席に座ると、トコトコと僕の席まで早織が歩いてきた。 「優雨君……」 「どうしたの?」 「い、いや……何でもない! 放課後の補習授業、頑張ろうね!」  早織が発言を躊躇ったのがハッキリと伝わった。  何か言いたいことがあったのだろうか……気になるけど、深追いするのは恥ずかしい。  特に気にするのはやめて、適当に授業を聞き流して一日を終えようと心に決める。  そうすれば、早織と二人きりで受ける補習の時間だ。  何気に、楽しみにしてしまっている。  ――あっという間に授業は終わった。  半分寝ていたけど、中には面白い授業もあった。  小学校の授業とはやっぱり違うと、再確認する。  そしていよいよ放課後。補習の時間。  僕と早織はあまり使われていない視聴覚室に呼び出され、補習を受けることになった。  最初は補習授業と聞いていたので、また授業形式で先生が教えてくれるんだと思っていたけど、実際は違った。  実際は授業で使った問題プリントを何枚か渡され、あとは勝手に解いていくという自習スタイルだった。先生の監視とかはなく、早織と二人きりだ。  緊張感の欠片もない。ただ早織と、プリントを解くだけ。  まあ、早織といるだけで幸せだし、全く異論はなかった。
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