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いつもは快速に乗る。
快速だと、各停で帰るより二十分は短縮できるからだ。
学校が終わったら、走ってでも快速に乗るようにしているけど、今日に限っては各停に乗った。
走る気力なんてないし、何より、できるだけ家に帰りたくなかったから。
時刻は夕暮れ時。真冬の今時期は、学校が終わる頃が日没の時間になっている。
窓からオレンジ色の光が差し込む電車内は、少しずつ混雑していった。
僕は人一人がちょうど座れるスペースを見つけ出して、両隣に座っている人に会釈をしながら、重い腰を落とした。
危うく長時間立ちっぱなしで過ごすところだった。
ひと息つくようにスマホを取り出す。
ここ一週間はスマホの画面を開くのが楽しみで仕方なかったのに、今は侘しさで胸が張り裂けそうになっている。
いつも決まってこの時間にきていたメッセージが、今日は届いていない。
「はぁ……」
こんな公共の場で溜息をつくなんて、気の弱い僕なら絶対にしないことなのに。
今日に限っては自分がコントロールできない。
両隣に座っている人が、僕を気にしてチラッと視線を向けてきたことにも気づいている。
でも、今は周囲の目なんてどうでもよかった……。
――つい一時間前のこと。
僕は校門の前で、付き合って一週間になる雪乃ちゃんと話をすることになった。
急に話があると言われたものだから、ドキッとした感覚があったのは確かだ。
でも、まさかそんな嫌な予感が、的中してしまうなんて思わなかった。
『ごめん圭斗君、何か……やっぱり違ったの。圭斗君とは付き合えない』
ずっとずっと天使だと思っていた雪乃ちゃんが、悪魔のような人間に見えた。”圭斗君とは付き合えない”って、いやいや、じゃあこの一週間は一体何だったのか。
少なくとも僕の告白を一度は飲み込んだのだから、形式的にはカップルだったはず。
どうしてなかったことにしようとしているのか。
自分勝手な判断にむしゃくしゃして、投げやりな「わかった」を言い捨てた後、僕は真っ白な頭で各停の電車に乗ったのだった。
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