優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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 どうにかして、虹山ヶ丘の夕景色を早織に見せてあげることはできないだろうか。  確かに、あの光の量は、特別日照アレルギーという病気持ちの人には耐えられる量ではないだろう。  普段、日中に浴びている光の量の、何倍もの日光量がある。  目の前に広がる海に光が反射し、虹山ヶ丘の麓に日の光が集まり注ぐ。  常人にとっては、ただの美しくてエモーショナルなスポット。  でも早織にとっては、とってもとっても危険な場所だ。  だけど……何とかして、連れて行ってあげたい。  一緒に、あの景色を見たい。 「もっと知らないと。早織の病気のことを」  僕は思い立って、視聴覚室から出た。  そのまま学校内にある図書室に向かう。まだ閉室時間ではないはず。  ……補習が終わったこと、先生には言わなくていいか。というか、別に怒られても関係ない。  僕は怒られても、失うものは何もないから。  それに、僕も早織も、今日の課題は終わっている。  ギリギリ閉室はしていなかった。図書室が閉室するまで、あと三十分ある。  僕は医学書コーナーに行った。  中学生がこんな難しい本なんて読まないだろう。誰も手に取った形跡はない。  埃まみれだ。 「えーっと、アレルギーについては……」  わかりやすくアレルギーについて書かれている医学書を見つけると、僕は目次を開いた。  その本は教科書くらいの厚さで、ところどころマンガ形式で説明してくれるような、中高生にも理解しやすい内容になっていた。  日照アレルギーのページだけを見る。 「……どちらかというと、皮膚のアレルギーなのか」  日光が当たると蕁麻疹やかゆみが生じてしまう。そのページには日光アレルギーという名称で書かれていた。  特別日照アレルギーとはまたちょっと違う、これはこれできついであろうアレルギー。  近い病名は記載されているけど、やはり早織の病気については書かれていない。  やっぱり、世間では明らかになっていない病気だった。今、まざまざと思い知らされた。  少しでも理解を深めようと図書室に来てみたけど、無駄だったみたいだ。  図書室の係の先生が閉室の準備を始めたので、早々に退室した。    早織が抱えている特別な病気を知る糸口は、一体どこにあるのだろう……。  答えも、アイデアさえも思い浮かばない。  暗くなった帰り道を歩きながら、早織を虹山ヶ丘に導く方法を考える。 「ダメだ……早織を危険な目に遭わせるわけにはいかない……」  もし僕が特別日照アレルギーについて知ったとしても、早織自体を救えるわけではない。  結局はあの日光量に、早織は耐えられないのだから。  僕にできることなんて、何もないんだ。  そう考えると虚しくなって、自分がちっぽけに思える。  自己嫌悪を抱きつつも、それでも無意識に早織のことを考えてしまっている。  もし、神様が僕たちのことを哀れんで、万が一に手助けをしてくれるとしたら、どうか早織に……あの景色をもう一度見せてあげてください。  神様を恨んでいる方だけど、僕の力でどうにもならない以上は、神頼みにでもかけるしかない。  薄気味悪い漆黒の空に願いを込めて、一度「お願いします」と呟いた。
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