優しい雨が、君の頬を伝うとき。

2/12
前へ
/12ページ
次へ
 小学六年生の時、僕は綺麗な夕景色を見た。  小学生最後の思い出を作るというクラスの行事で、街でも有名な絶景スポットへ行くことになったのだ。  額に滲む汗をシャツの袖で拭いながら坂を上り、街並みや海を見渡せるその場所は、虹山ヶ丘(にじやまがおか)という名だった。  虹山ヶ丘の麓から見える日本海に夕日が沈む、その瞬間。  眩い光が水面に反射し、瞳に感動を与えてくれた。  僕は気がつくと、涙を流していた。  小学生ながら、景色を見て心が揺れたのだ。  ――その瞬間、突然雨が降ってきた。 「おい! 優雨(ゆう)のせいで雨が降ってきたじゃんか!」  え……? 僕のせい? 「そうだよ! 優雨が泣くと、いつも雨が降る!」 「せっかく感動してたのに!」 「優雨のせいで台無しだ!」  みんな、僕の方を睨んでる……それも、雨に打たれながら。  みんなからの突き刺すような鋭い視線で、余計に涙が流れてきた。  天も呼応するように、激しく雨を打ちつける。  その時に、悟った。  僕には、涙を流すと雨が降ってしまうという、不思議な力があるんだ……と。 「えー、でもさ」  僕を囲む輪を切り離すように、一人の女の子が手を挙げた。  そして、僕の目を見て、微笑みながら言う。 「優雨君が降らせる雨、すごく優しいよ……」  ……僕はその時、心がぐちゃぐちゃになった。  運命の悪戯を恨み、そして包み込むような笑顔に救われた。  彼女の頬に光る水滴が、沈みかけた日の光を反射させ、僕を照らす。    あの子はきっと、僕の太陽だ。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加