優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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 友達? 確かにそう聞こえた。  飛び起きるように、掛け布団と毛布を蹴飛ばす。  それと同時に、心臓の鼓動が大きくなった。  今の僕に会いに来る友達なんて、いただろうか……。  訝しげな表情を崩すことなく、部屋のドアを開けた。  すぐに階段を下りて、玄関に行く。 「あ、やっと降りてきた! ごめんね、えーと……」 「天海 早織(あまみ さおり)です!」  僕は腑抜けた声で「あ……」と言った。  さっきも夢に出てきた女の子。小学六年生の時に太陽だと思わせてくれた、包み込む笑顔の持ち主。  あれ以来、片時も忘れたことはなかった。  どうして彼女が、僕の家に? 「岩中(いわなか) 優雨君……だよね? 私のこと、覚えてる?」  ニコッと微笑むと左右対称にできる笑窪。三年前と変わっていない。  それと、吸い込まれるような大きな瞳。動く度に靡く、短めのサラサラヘア。  小柄で明るくて、人の悪口を言わなそうな優しい子……その早織に、話しかけられている。  答えなきゃいけないのはわかっているけど……頭が上手く回らない。  きょとんとしている僕を見かねて、母さんが助け舟を出す。 「ごめんね早織ちゃん。この子しばらく学校を休んでいるから、人と話してないのよ」  母さんにフォローされて、少し恥ずかしくなる。  慌てて声を出すと、乾燥で若干声が嗄れていた。それも相まって、顔に熱を帯びてきた。 「関係ないよ! ちょっと寝起きなだけ!」 「何よ、顔赤らめちゃって。ごめんね早織ちゃん、ゆっくりしてって」  母さんはそう言ってから、元々作業をしていたキッチンに戻った。玄関で二人きりになる。  早織は愛嬌ある笑顔のままで、僕の方をじーっと見ていた。  え、僕に何の用があるんだ。もう三年も、クラスのみんなと関わっていない。  小学校のクラスメートはみんな、同じ中学に進学したはず。  もちろん、早織も。  僕はみんなとの関係を遮断したんだ。だって迷惑がかかるから。  それなのに、今更何が?  発言しない僕を見て、早織は先に口を開いた。
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