優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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「優雨君! 今日から学校行こ!」 「……へ?」  突飛な発言のせいで、変な声が出た。  早織が……学校に誘っている? しかも、今日から?  脳の処理が追いつかなくて、体が固まってしまう。いきなり過ぎるだろ……急には無理だよ。 「え、なになに! 優雨、いよいよ学校に行くの!?」  早織の声は、キッチンにいた母さんまで届いたようだ。  僕が学校に行く流れが出来上がったと思っているのか、すごく嬉しそうな顔をして、玄関まで戻ってきた。 「い、いや……僕はいいよ。今更行ったところでだし」 「大丈夫! 実は私もね、今まで学校行けてなかったんだ! だから行くの久しぶりなの!」 「え? どうして……」 「細かいことはいいから! お願い! 一緒に行ってほしいの」  早織に懇願されるなんて、思ってもみなかった。  理由はわからないけど、早織も僕と一緒で、不登校だった……ってことか?  早織は皆勤賞を取りそうなほど、学校へは真面目に行く人だと思っていたのに。  一体何があったんだ……この三年間の中で。 「優雨、早織ちゃん困ってるじゃない。助けてあげなさい」 「で、でも、今から行くなんて……さすがに勇気出ないよ」  母さんは僕の弱気なセリフを聞くと、両手を腰に当てて深い溜め息をついた。  そのまま腰の後ろに手を回して、花柄のエプロンの紐を取る。  立ったままエプロンを畳み、その後に一度頷く。そして、今までにない真剣な表情に変わった。 「優雨、中学校に行ける期間は、あと僅かしかないのよ。このままだと、将来絶対後悔するわ」 「そ、そうかな……」 「絶対そうよ! いいじゃない! 今から勢いで行っちゃえば!」  や、やばい……母さんまでノリノリだ。このままの流れだと、断りづらいぞ。  本心はものすごく行きたくないのに、早織の困り顔と母さんの圧力に屈しそうになる。  早織が母さんに向かって、目を輝かせながら頭を下げた。 「ありがとうございますお母様! 私の味方になってくれて!」 「何を言いますやら! こっちが感謝したいくらいよ! 母として、引きこもりの息子には手を焼いていたから」  それ、僕の目の前で言うんだ……。  別に母さん、僕が不登校なのをいつも楽観的に見ていたのに。  早織の前で、嘘はつかないでほしい……。
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