優しい雨が、君の頬を伝うとき。

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「じゃあ優雨君! 制服に着替えてきて! 私ここで待ってるから!」 「え、い、いや……」 「早く早く! 遅刻しちゃうよ!」  早織の声に後押しされるように、僕は自分の部屋に戻ってクローゼットを開けた。  だいぶ前に、数回着た程度。  幸い、身長はあまり伸びていなかったので、少しピタッとしているとはいえちょうど良く着られた。  姿見の全身鏡の前で、寝起きで色素の薄い僕の顔を見る。  本当にこんなどんよりした顔で、学校に行くのか? またいじめられるんじゃないかな……そう思うと、急に胃が痛くなってくる。 「優雨君ー! まだー!?」  それでも、早織は僕を求めてくれている。  意を決して、行くしかないか……一気に憂鬱だなぁ。  まあ、今までも憂鬱だったけど。  洗面台で顔を洗って、準備万端になったら玄関に戻った。 「うん! 似合ってるよ! ねぇ、お母様?」 「ええ、バッチリよ! 優雨の学ラン姿なんて、もう見られないと思っていたわ」  母さんが泣く仕草を見せながら、ニンマリと微笑んだ。  まあ、二人がこんなに喜んでいるんだ。学校に行ったとしても、この後の暗い人生でみんなと絡むことは全くないはず。  別にどうなってもいいという精神で、めんどくさがりながらも行くことにした。 「優雨君、絶対二人で、卒業式出ようね!」  早織が、信号待ちになった時、僕の方を見てそう言った。  卒業式に出るということが、そんなに重要なのか……しかも僕なんかと? 朝からの流れが全て夢なのではないかと疑ってしまうほど、信じられない。  それほど、早織とは無縁だと思っていた。  まさか、早織と学校に行くことになるなんて、誰が想像していたであろうか。  僕は「卒業……できたらいいね」と、少し他人事のように答えてしまった。  早織の顔が、少し曇る。  僕はその表情を見て、嘘でもいいから「そうだね」と返せばよかったと後悔した。    久しぶりの外気は冷たく、きりりと肌を刺すようだった。
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